その日が来るまで
「さて、打ち合わせも終わったし、もう一杯コーヒーはいかがかね折橋君?」
折橋は珍しいなと思いながらも快諾した。
「はい。お願いします」
いつもの博士なら打合わせが終わると直ぐに次の研究に取り掛かる。何なら打合わせ自体面倒くさいと思わせるような節まであった。
次回の予算の話か、はたまた独り身の淋しさか等と折橋が考えていると、博士が新しいコーヒーを持って応接室に入って来た。
少々の沈黙の後、博士は切り出した。
「折橋君、君はタイムマシンを作る事は可能だと思うかね?」
「タイムマシン!! 遂に発明したのですか博士!?」
「いやいや、只の世間話じゃよ。君はどう思う」
笑う博士の姿に少々落胆しながら折橋は考える。
「う〜ん、そうですね。科学者である博士の前では言い辛いのですが、例え将来においてもタイムマシンは完成しないと思います。だってそうでしょ? もしタイムマシンが完成したのなら、未来から誰か来てそうなものじゃないですか? ところがそんな話は一度も聞いたことが無い」
軽く頷きながら博士が答える。
「発明した科学者が黙っておるだけかもしれんぞ」
「いやいやいや、僕も科学者との付き合いは長いですからね。それだけ偉大な発明をした科学者が黙っていられる訳ないですよ」
「そうか…。そうじゃな…」
その後、取り留めない話を重ね折橋は研究所を跡にした。
一人になった博士はデスクの鍵が付いている引き出しから封筒を取り出した。
「折橋君。君は科学者という者を誤解しておるよ。我々科学者が見せたいのは常に明るい未来、輝く希望なのじゃ。絶望を見せたい科学者などおらんのじゃよ」
博士は、それを見た時から脳裏に焼き付いてしまっている景色を首を降って頭の隅に追いやり、封筒をシュレッダーにセットして研究室へと向かった。
研究室の中には、先日博士が解体した乗り物のような発明品。博士はその部品を1つ拾い遠い目で見つめる。
「こいつで折橋君を連れて行かなかったのは不幸中の幸いじゃったわい」
博士は部品を強く握り締める。
「今はどうする事もできん。しかし…、しかしいつかワシの見た景色を変えることが出来るはずじゃ。その為にワシに出来ることは研究しかない。さぁ研究を続けるとしよう。その日が来るまで」
シュレッダーにかけられた封筒には『タイムマシン完成設計図』と書かれていた。
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