お題 塩人
「そんなに掛けると体に悪いわよ」
俺はいつもお前が作った料理に塩を掛けて食べていた。和食であろうと、洋食であろうと、はたまた中華であろうと。肉、魚、野菜、そして味噌汁にまで。
「血圧上がるわよ」
「胃にも良くないって聞くけど」
「長生きしてもらわないと」
小言を言いながら眉を曇らせるお前に、「大丈夫、大丈夫」と笑うことも、もうできない。皮肉なもんだ。散々俺の体を心配していたお前が先に逝っちまうなんて。
お前がいなくなってから俺の毎日の食事は料理ロボットに任せている。お前が残してくれたレシピのお陰で、お前の料理を完璧に再現することができるからだ。
夕餉の配膳を終えた料理ロボットはいつもの通り充電スポットに移動して自らの食事を始める。
「いただきます」
俺は手を合わせ、静かな食卓で塩を掛けることなく味噌汁をすすった。
了 (357字)