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◎脇役列伝・番外:莫玄羽(考察ー2)

(画像は『魔道祖師』前塵編一話より 献舎によって蘇った直後の魏無羨)

(◎脇役列伝・番外:莫玄羽(考察ー1)の続き)
 莫玄羽は莫家に戻ってきた時に気がふれていた。
 その原因に関してはいくつか候補が上がるかもしれないが、私としては「父の死の真相を知った」ことだと思っている。

 まず、莫玄羽は父親に呼ばれて金鱗台で修行をすることになったので、この時点で父親つまり金光善[ジン・グアンシャン]が生きていたことは確実だ。そして、献舎によって魏無羨が蘇った後、噂話で金光善が既に亡くなっていることを知るので、この間のどこかの時点で金光善が死を迎えたのは間違いがない。
 莫玄羽が莫家に戻ってどのぐらいの時間が過ぎたのかについての記述はないが、長く見積もってもせいぜい数年というところだろう(アニメでは数ヶ月となっている)。一方、金光善の死に関する噂が莫家荘のような地方にまで広まっていくのにも、ある程度の時間がかかると思われるので、莫玄羽が金鱗台にいた頃に、金光善が亡くなったと考えても見当違いとは言えないと思う。

 仙督である金光瑶は金光善の庶子なので、莫玄羽の異母兄に当たる。それを思うと、莫玄羽が金光瑶に思いを寄せて付きまとっていたという話も、信憑性が疑われる。莫玄羽が断袖であったことに疑問は持っていないが、兄である者に対して関係を迫ったりするものだろうか。

 ある程度親しかったのは確かだろう。兄弟なのだから。ことに金光瑶の性格を考えると、金鱗台に来たばかりの莫玄羽に、金光瑶の方から積極的に声をかけて親しくなっていった様子が思い浮かぶ。金光瑶にしてみれば、またライバルが増えるわけだから、どんな相手か探ろうとしていたはずだ。
 莫玄羽がその素質的にもパッとしない相手だとわかると、内に取り込もうとしたのではないだろうか。莫玄羽は毒にも薬にもならないタイプだろうが、おそらく従順だったろう。味方は多い方が良い。
 こうしてどんどん親しくなり、金光瑶の持っていた秘伝の書まで見せるようになった、と。

 莫玄羽がおかしくなった原因を、「父の死の真相」以外に求めることもできるが、そのこと以上に莫玄羽にダメージを与えることはできないだろう。「自分の父を親しくしていた兄が悪辣なやり方で殺した」という事実は、決定的だ。

 莫玄羽にとっての父・金光善がどれほどの存在だったかはわからないが、おそらく顔も覚えていなかっただろう金光善に、莫玄羽は最初から大した期待は持っていなかったのではないだろうか。
 彼の母親は莫玄羽とその父に大きな期待を抱いていただろうが、修行を始めてしばらくすれば、自分の素質がどの程度のものかもわかっただろう。母親の言うような「金光善の跡を継いで仙門のトップに立つ」というような野望は早々に諦め(莫玄羽が上昇志向の強いタイプだったとは思えない)、ただ「父が自分を見捨てないでいてくれた」ことに対する感謝の気持ち程度だった気がする。
 ほとんど構ってもらえなかったとしても、自分より出来の良い兄弟が周りに大勢いたわけだし、さほど不満にも思っていなかったのではないだろうか。新しい環境に来て、物珍しい物に触れる喜びはあったかもしれないし、そうなればそういう機会を作ってくれた父親には、悪い感情をあまり持っていなかったのではないかと思う。

 そんな中、莫玄羽は恐ろしい秘密を知ってしまった。そしてそのことで精神に著しいダメージを受け、正気とは言えないような状態にまでなってしまった。
 知られた側とすれば、無論この時点で彼を始末する選択もあっただろうが、多少は情が残っていたのか、言い含めて故郷に返す選択をし、その一方で彼が断袖であったこと、金光瑶に言い寄っていたことを理由にして、周囲に言いふらし、追い出されても仕方がないと皆に思わせたのだと思う。
 莫玄羽と金光瑶が親しかったことは、おそらく周囲もよく知っていたので、誰も疑問を持たなかったのだろう。
 当然、莫玄羽が下手なことを言い出さないかどうか、彼はずっと監視されていたはずだ。これが無言の圧力となって、莫玄羽をさらに追い詰めたのではなかったか。

 莫玄羽に献舎の術を使わせて魏無羨を呼び出そうという目論見が、どの時点で始まったのかはわからない。だが私としては、彼が仙門を追い出された時点では、まだそこまで計画は進んでいなかったと思う。
 最初からそれを使わせる目的で、そもそも献舎の術に関する記述を見せたというのは無理があるだろう。その時点で莫玄羽が父の死の真相を知っていたとは思えない(知った時には気がふれているので、冷静にそれを見て理解できるはずがない)し、知っていない莫玄羽ではそれを殺す動機がない(献舎の術を使わせることは、その相手を殺すことと同義だ)。
 かつてそれを見せた記憶を元に、莫玄羽をターゲットに選んだ、というところだと思う。口封じにもなるし。

 献舎の術は、そんなに簡単なものではないと思う。莫玄羽が金鱗台にいた頃に見た、ということはあると思うが、一度見ただけの記憶を長い時間が経ってから思い出せるようなものではない、と。
 金鱗台にいた頃に見たというその時点で、たとえばメモにとって残しておくというようなことは考えられない。それは鬼道の呪術にあたるものだから、公にはされていなかったはずだし、普通に考えてそれを写すなどは許されない。それに何より莫玄羽から見れば、それを自分が使うことになるとは思っていなかったはずだからだ。
 だとすれば、莫玄羽に献舎の術を使わせようとなった時に、誰かがそれを莫玄羽に今一度教えたのではないだろうか。

 さて、ここまでを整理してみよう。

 父の死の真相を知った莫玄羽は、衝撃のあまり心に深い傷を負い、まともではいられなくなった。
 そこで彼は、一度莫家に返されることになる。
 莫家に戻った莫玄羽は、秘密を漏らさないかどうか監視されていた。そのことに薄々勘づいた莫玄羽は、自分の顔に分厚い化粧を施して、顔を隠すようになる。
 一方、莫玄羽の母親はほどなくして亡くなり、伯父伯母は彼に冷たく、従弟は家僕と共に虐めを繰り返す。
 そんな頃、邪祟と化した左腕がどうにも抑え込めなくなり、これに対抗できるのはおそらく魏無羨だけだろう、という考えが金光瑶の頭に浮かび、死んだ魏無羨を呼び出すための手段として、莫玄羽を利用することにする。
 そして、莫玄羽を監視していた者によって、献舎の術が改めて莫玄羽に伝えられ、「お前を虐める奴らを見返すにはこれしかない」と吹き込まれたのだろう。
 莫玄羽はこれを実行し、魏無羨がこの世に蘇る。

 以上が私の推測だ。
 莫玄羽の使った献舎の術が不完全であったのも、意図的だったのではないかと思っている。それを莫玄羽に使わせた者にとって、家族への復讐などどうでもいいことだからだ。
 必要なのは、魏無羨が確実にこの世に蘇ること、そしてそのタイミングで左腕を放って、これと対決させること。献舎された者は、その体の持ち主の願いを叶えることができなければ、呪いが発動して魂は完全に滅ぼされ、永遠に生まれ変わることができなくなるので、わざと願いが魏無羨に伝わらないようにし、あわよくば滅びてくれと思っていたのではないか、と。
 鬼道の大家である魏無羨など、最終的には邪魔者でしかないからだ。

 こうして見ると、莫玄羽はなかなかに不憫な人物だ。身内にさんざん振り回され、その死の瞬間まで操られ利用されている。金光善の子でさえなければ、平凡な人生を送り、それなりの幸せを手にすることができたかもしれないが、それは言っても詮無いことだ。
 ただ。最終的に魏無羨らによって、莫玄羽の真の復讐は果たされたと言えるので、そこだけが彼の救いになるのかもしれない。

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かんちゃ
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