夜凪#9
俺は、屑なやつだ。
何もできない、そして、最低なやつ。
『お前、もっとできねぇのかよ』
あの時の声が蘇る。
「俺は───っ、」
言葉に詰まる。
なんで思ったように言葉が出ないんだよ、こんな時に。
「話してくれとは言ったけど、無理はしなくていい。話せるようになったら話して欲しい」
「・・・だい、じょうぶです。今話します」
これ以上瑠衣に迷惑をかける訳にもいかない。
俺は夏が嫌いだ。
なぜなら、
「凪くん、ちょっといいかな?」
「あ、うん」
あの事件があった季節だから───。
中学3年の夏。
クラスメイトの男子に呼ばれた。
「あの、さ、」
「どうした?」
「僕、凪くんのこと、ずっと好きだったんだよね」
「え、」
突然のカミングアウトだった。
「これだけは、伝えとこうと思って。俺転校するからさ」
「そっか・・・」
「ほんと突然こんな話、ごめん。きもいよね」
しんどそうに笑うクラスメイト。
「・・・俺はきもいとは思わない。ただびっくりしただけ」
本当に心の底からそう思った。
きもいとかない。
好きな人を好きと言って何が悪いのか。
「っ・・・、ありがとう」
「こちらこそ、全部受け止めることはできないかもしれないけど、言ってくれてありがとう」
そしてその子は夏真っ盛りの中、転校していった。