【インド法人代表・ムルガンに密着】ココピートをあらゆる農業課題のソリューションに
今回、科学者であり、ココカラ・インディアの代表、アルール・ムルガンさんに密着取材いたしました。
ココナッツ最大の産地のひとつポンディシェリ
タミルナドゥ州の州都チェンナイより南へ150Km下った街ポンディシェリは、かつてのフランス領で、現在はインド連邦直轄領。年間を通して高温多湿のこの海沿いの街に、ココカラ・インディアのオフィスがあります。
夏真っ盛りの6月、私はココカラ・インディア代表のアルール・ムルガンさんを尋ねてポンディシェリを訪れました。
住宅街の狭い路地の一角にある2階建オフィス。ここには、貿易物流、機械デザインなど、ココカラに関わる3つのオフィス、そしてムルガンさんの研究開発ラボが共存しています。
また、日当たりのいいテラスではココピートを使った実証実験が行われ、ココカラの培養土で栽培したグアヴァの苗は、今では3メートルを超えて敷地内に移植されています。
敷地全体の至るところにココピートがあふれていて、ひとつひとつを丁寧に語るムルガンさんの、ココピートへの熱い想いを感じます。2階のオフィスには、ムルガンさんの他に若い女性スタッフが2名、21歳のパーカヴィさんと、20歳のデヴィさんが働いています。
二人とも大学で商業を学び、一年前のロックダウン下で働く機会が無かった時に、ムルガンさんに雇ってもらったとのこと。
現在は、セールス、データ管理、銀行業務、生産管理などの事務作業のトレーニング期間を終え、ココカラのマネージメント全般をムルガンさんから学んでいます。
とデヴィさんは言います。
ココカラ・インディアの設立
「ココカラ」がそのブランド名と同時に設立したのは2016年。
しかし、代表の大原さんとムルガンさんの出会いと、ココピートビジネスの日本マーケット参入は、2012年にまで遡ります。当時は、ヨーロッパ企業とタイアップしてひたすらサンプルを配り歩いていましたが、既存顧客のいない中で農家の方たちの信頼を得るのはなかなか困難を要したと言います。
そんな中、東日本大震災の津波で土地を失った宮城県のイチゴ農家の復興支援をしていた株式会社GRAの存在を知り、GRAに無料サンプルを提供し始めたのがブレイクスルーとなったのです。
その後、日本の市場やお客様のニーズに丁寧に対応していきたいと、二人は「ココカラ合同会社」を設立し、南インドのココナッツを使用した自社ブランドココピート「ココカラ」が誕生したのです。
そして2021年、それまでの生産拠点であったポンディシェリに、正式なインド法人として「ココカラ・インディア」が設立し、ムルガンさんがその代表として就任しました。
ココカラ・インディアが担う3つの任務
オフィス2階にあるムルガンさんの部屋で、ココカラ・インディアの活動について伺いました。ココカラ・インディの役割は、大きく3つのカテゴリーに分かれていると、ムルガンさんは言います。
ひとつ目は、安定した品質と量の確保。
ココナッツの1つのハスクから取れるココピートはたった100グラム弱。
1本のココナッツの木から取れるココナッツは年間で約100個。
ひとつのコンテナをうめるためには約25万個のハスクが必要になります。
ココカラの製品基準を満たし、かつ十分な原材料の確保をするためには、生産地の気候風土、ココナッツの種類と性質について熟知していなければいけません。
料理に使われるのは緑色のテンダーココナッツ。その収穫をあと20日ほど待てば、オイルを抽出するための茶色く完熟したココナッツになり、この完熟ココナッツが良質なココピートの材料となるのです。
ココナッツを料理に多用するタミルナドゥ州では、
緑色のテンダーココナッツの需要が多く、ココナッツオイルの生産が主流なバンガロール近郊は、完熟ココナッツが多く収穫されます。
100%天然製品ゆえの難しさとチャレンジ
100%ナチュラルなココピートの安定的な確保には、
ココピート製造における品質の維持も必要になります。
ココナッツの加工プロセスは大きく分けて3段階。
洗浄、太陽光乾燥、圧縮。太陽の光と熱で乾燥させているため、
霧雨が降っただけでも、再び自然乾燥するまで次の圧縮加工には回せなくなります。
つまり、安定した製品供給のためには、大量の原材料をストックしておかなければいけないのです。現在、太陽光以外での乾燥方法を研究しているというムルガンさん。
ココピートの性質や加工における素材の反応、またそれがどう品質に影響していくかという一連の流れが、科学者であるムルガンさんには手にとるように分かると言います。
大切なのは原材料。農家と工場との信頼関係の構築
ココカラ・インディアの2つ目の役割は、原材料の仕入れ先となる農家と、ココピートの製造工場との専属契約です。
現在は4つの製造工場と契約し、そのうち2工場はココカラ専属のサプライヤーとなっています。
原材料であるココナッツも、一般のマーケットから仕入れることはなく、
ムルガンさんが自ら足を運んで、その土地の気候やココナッツの種類を確認して、提携した農家からのみ仕入れをしています。
農家やワーカーさんの意識を高める新しいシステム作り
3つ目は、新規の機械デザインと新商品の開発です。
直近では、2021年JETROの支援による機械開発プロジェクトがありました。ココカラで借り入れている土地に導入された簡易ココピート製造機。
ここには5〜6の近隣ココナッツ農家からハスクが持ち込まれ、
共同でココピートを作る成功事例となっています。
ヤシ農家の貧困と地球環境問題解決のためにcococaRaが行ったこと
ムルガンさんはこの機械設計にも関わり、完成後は何度も現場に通って、機械の使い方のトレーニングをし、
ココナッツの特性やココピートについての知識をワーカーたちにレクチャーしてきました。
今では、毎日5,000~7,000個のココナッツハスクを処理するまでの生産力がついたと言います。
未来を見すえた品質改良と新たな研究開発の日々
ココカラ・インディアでは、ココピートの生産管理だけでなく、新しい商品や品質改良のための研究開発も行っています。
ムルガンさんの部屋の隣には、ココピートのサンプルや様々な薬品が並ぶ簡易ラボがあり、科学者としてのムルガンさんの研究心が垣間見えます。現在はオールインワンタイプの養分溶液を研究開発中とのこと。
このオールインワン溶液を水に混ぜて使用することで、土壌を肥沃にしつつ、食物の成長を助けることができる。
それは、いつどんな養分を与えればいいかという深い知識のない農家の人たちの生産活動を助けることもできるとムルガンさんは言います。
夏の強い日差しが照りつけるテラスに出ると、そこでは使用済みココピートの再利用実験や、ココピートに混ぜる養分溶液の実証実験などが行われています。
ココピートのリサイクルも100%オーガニックで、地球に優しいエコシステムを構築しているのです。
ポンディシェリ市街のオフィスから1時間ほど離れた場所には、ムルガンさんと友人の科学者が共同で使用するラボがあります。
このラボの維持と研究開発には多額の投資が必要となり、現在は一時閉鎖中になっていますが、その間もムルガンさんはバンガロールにある大学と契約して研究を続けています。
また、コロナ禍に行われた同大学のセミナーにも、パーカヴィさんとデヴィさんを連れて積極的に受講し、ペストコントロールや養分不良が植物に及ぼす影響などについて学んできました。
そのおかげで、今では日本のお客様から送られてくる葉っぱの不良画像から、その原因や対策を考えて伝えることができるようになったと言います。
その他にも、土壌開発アプリケーション、ココピートの多方面圧縮機開発、米作用のココピート開発など、ムルガンさんの探究は多岐に渡って止まることを知りません。
様々な課題への取り組み、新たな研究開発の裏には、ムルガンさんの科学者としての探究心と絶え間ない努力があるのだと思います。
そして何よりも、ムルガンさんは、これからの世界におけるココピートの必要性、可能性を強く信じていると繰り返します。
ココピートはこれからの農業課題のソリューションとなる
ビジネスの拡大を考えれば、欧米への輸出をしたほうが利益は圧倒的に大きい。それでもムルガンさんが日本にこだわるのは、日本への愛着と恩があるからだと言います。
日本の少子化、農業従事者の高齢化と減少。
世界的に広がる、農業に適した土壌や水の減少と、それに伴う食の輸入依存から脱していこうとする潮流。
世界でSDGsが強く掲げられる中、ココピートは貧困、飢餓、安全な水などSDGsの複数項目に貢献することができると考えています。
ココカラの品質と絶え間ない研究開発の裏には、常に研究者として品質を追求し続けるムルガンさんの探究心があります。
そこには、ココナッツの産地、特性を理解し、食物を育てる土壌に必要な水や養分についての研究を重ね、なおかつ気候変動や環境汚染で深刻化する地球の食の未来を真剣に見つめるムルガンさんの、人としてのあり方が現れているのだと思います。
最後に、ムルガンさんにとって、ココカラにおける中長期的な目標はなんですかと伺いました。
近い将来、日本の農業が「ココカラ」のココピートによって支えられ、地球環境に優しい新しいエコシステムの一助となる日が来ると信じています。
執筆者:花岡真理子
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