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リンクスランドをめぐる冒険Vol.38 ジェームズ・ブレイド氏のこと リーイー・ゴルフ・クラブPart.2.01

リーイー・ゴルフ・クラブの設計に関わったジェームズ・ブレイド氏のこと。

近代ゴルフの祖とかハリー・バートンやジョン・H・テイラーと並ぶ三巨人とか、全英オープン5回優勝とか、その偉大な功績については枚挙の暇がない。ネット上にはブレイド氏に関する情報が膨大にあるので、興味を持たれた方はぜひご自身で調べていただきたい。
数多あるブレイド氏の情報で、私がもっとも好きなのは彼の墓に刻まれた言葉。

"He had many opponents but no enemies."

opponentsとは対戦相手、enemiesとは敵。
"彼には多くの対戦相手がいた。しかし敵は誰一人いなかった"といった感じだろうか。
三巨人の1人、ヘンリー・コットンはブレイド氏のことを「「ジェイムズを知る人は皆、彼の中に謙虚さ、威厳、寡黙、知恵、そして深い優しさといった愛すべき特質を認めていた」と言っていた。
ブレイド氏の人柄が伝わってくる墓碑だ。

プロプレーヤーとしてだけでなく、コース設計者としても優れた手腕を発揮したブレイド氏がリーイー・ゴルフ・クラブの改造を手がけたのは1933年。18ホールへ拡張するデザインを依頼された。
小さな入江のサンドサイド湾、そこに注ぐ3本の小川。リンクス特有の固い砂丘とコブ、放置すればすぐに伸びるフェスキュー芝。
これらを前にして、ブレイド氏は何を思ったのだろうか?

サンドサイド湾は小さいが強風が吹けば波も荒れる。湾の突端にグリーンを作れば際立ったシグネチャーホールになったはずだ。3本の小川を落とし所のハザードにすれば戦略性も難易度も高くなっただろう。あるいはコブを利用するだけでブラインドホールも作れる。設計家としての主張を思う存分に発揮できる地形だ。

ブレイド氏はそんなことしなかった。
小川がハザードになっているホールはある。海沿いのグリーンは強風が吹けば確かに難しい。フェスキューのラフに入ればボールを見つけるのは困難。
けれど、それらにブレイド氏の手の入った痕跡は見つからない。自然のままの地形、と言われれば誰もが納得するだろう。
ヘンリー・コットンの言葉通り、謙虚ではあるけれど知恵が必要であり、それに気がついた時、このコースの威厳が理解できる。
もう一度、ヘンリー・コットンの言葉を借りるなら、ブレイド氏の息吹が吹き込まれたこのコースは、彼の人柄通りに深い優しさがあるのだろう。

それが、私がこのコースに感じた理由だ。

リーイー・ゴルフ・クラブは2023年のスコットランド・ゴルフコース・ベスト100に選ばれた。コース設計者の名匠、ドナルド・スティールはこのコースを「別の場所にあれば世界的な称賛を享受できた」と評した。
確かに、数多あるリンクスコースの中では無名の存在かもしれない。

しかし、この地で、ジェームズ・ブレイド氏がコースを18ホールに改造し、それをメンバーが守ってきたからこそ、今のリーイー・ゴルフ・クラブがある。別の場所にあったら、それはリーイー・ゴルフ・クラブではない(いや。スティール氏がそんなつもりで言ったのではないことは承知の上で)。

世界的な称賛がこのコースに必要だろうか?

もし、その疑問を感じたなら、このコースでプレーするといい。
それが望むことなのか、18ホールを回った時に誰もが分かるはずだ。

ジェームズ・ブレイド氏。個人的なことで恐縮だが私のお爺さん、母の父親によくにている。
この画像は公式サイトからの引用。他の同じ構図の画像を見ると、どーも反転しているような気が…。

続く

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