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希使念慮/掌編小説#3

一.
 路頭に迷っているという言葉が現状を表すに最適だと思う。
 前の職場を退職し、はや半年。貯金ではにっちもさっちもいかなくなったから、就職を決意した。半年の空白期間が足を引っ張り、勤め先を見つけることは容易ではなかった。さらに4ヶ月かけ、ようやっと勤めを見つけるに至った。
 しかし、ここでいいのかという思いは拭えず、新生活への不安感は日々増長するのであった。

二.
 一度根付いた芽は、不安定な精神環境を土に、世間への不満を糧に、将来への不安を水に、成長を続けた。
 成長しきったこの植物は「いっそ、◯んでしまえばいいじゃないか」と、新たに厄介なタネを落としてくれた。
 最初の住人だけでも定員オーバーだ。1Kに6家族詰め込まれたように、心の方はぎゅうぎゅうと音を立てている。

三.
 夕暮れがさらに落ちていく。
 考え過ぎていたことがわかった。
 台所の換気扇をつけて、タバコに火をつけた。肺の中に煙を入れる。眼の奥の神経がきゅーっと縮んでいくのを感じる。この感覚は最初の1口目にしか味わえない。この時だけ、頭がスーッと軽くなる。だが、2、3口目からは普段の状態に戻った。
 いかん、また、嫌なことばかり考えてしまう。もう外は暗くなってる。そもそも今何時だ。この部屋には時計がない。電気もつけないと。スイッチを押す。リモコンを探し当てた。テレビ画面に向ける。画面の中でアナウンサーはこう言った。「若年者の自◯者数が過去最高を更新しました」そうだ、すぐ◯のう。今すぐ

四.
 入居した時に買ってから使っていないフルーツナイフを手にとって、逆手で自身の胸に構える。ああ、これから人生が終わるんだ。あーあ、良い事なかったなあ。
 刃先が肌に触れた時、初めて金属の冷たさというものを眼以外で捉えた。体の生あたたかさが吸われていくような。
 あ、あ、あ、あ、()
 ああああああああああああああああああああああ!



 肌の内を少し刺したところでナイフを投げ捨てていた。自分の決意に踏ん切れなかった情けなさが上から俺を見下ろして嘲り笑っている。頭上に広がる青天井の宇宙が痛みに耐えかねた俺を哀れに見ていた。
 逃げるように布団にくるまった。もう嫌だ何も考えたくないどうしてこんな目に遭うくそが!クソがクソがクソが!!

 心の中では果実がなった。「お前、ダメなやつだな。マジで。」
 
 


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