交錯の火(103号室編)/掌編小説
一.
不意に目を覚ます。カツ、カツ、カツ…何か、どこかで音がする。
眠れないとは思わないが、鳴っていて心地よいものとは思わない。午後11時。布団に横たわるジジイが1人。
二.
地球温暖化、地球温暖化。そう言われて久しい。それに最近では地球沸騰という新しい言葉も出てきた。
ワタシら、敬老者にとってこの暑さは致命的である。いや、これは文字通り。実際に昔からの馴染みは何人かこの暑さで他界した。
昼間に空調の故障が発覚した時には本当にどうなるかと思ったが、私の部屋はなんとか修理が間に合ってよかった。
エアコンのない昼間はこれまでになく辛いものだった。改めて文明の利器のありがたみを知る。最高気温37度は扇風機には荷が重かった。
三.
そういえば、今日、2階に住んでいる若者は随分と大家さんと揉めていたっけ。今日中に修理するのしないだの。暑い中で、ギャンギャンとやっていたので癪に触るような会話だった。
若者であれば、1日くらい持つだろう。みっともなく吠えていてとてもみっともなかった。引越しの挨拶もなかったし、若者は常識や思いやりなんぞない。本当に醜い連中だ。
四.
布団に入ってそんなことを考えていたが、その考え事も中断される。
か、ガツ。か、ガツ、ゴンっ!
天井から不穏な、騒音が垂れ流される。とてもうるさく、とても不愉快。もう眠れないだろう。
上の部屋は女子大生とか言っていた。若者だ。本当に若者は嫌いだ。他者の迷惑など考えないのだろうか。
カツカツカツカツカツカツ、カツカツ!
音が止まった。
なんだこの音は。少しうるさくなって、その後、止まった。
五.
やっと、眠れる。
辺りは静まりかえり、
今までにないほど暗くなる。
なんだこの感覚。
意識が遠のく。私はなにをしようとしていた?
目を開けているのに何も見えないのはなぜ?
固定されているような安心感があり、宙に浮くような浮遊感がある。これは一体?なんな
(この物語はここで終わり。 筆者より)