死ぬ前に一度だけスキと言って
「わたし、心筋型拡張症なの」
相崎ミリアは、スタバで恋人の
今澤孝にそう告白した時の、一種独特の
高揚感と緊張感のようなものを今も
忘れていない。
「冗談だろ?」
孝は何か複雑そうに狼狽えた顔をしていたが
ミリアは次第に平静と冷静さを取り戻してきていた。
、
「死ぬのか」
「殺さないでよ。それほど
病状もひどくないってお医者さまが」
「よかった」
「なんで」
「だってオマエを借金の連帯保証人に
してあるのに、向こうさんが
とりっぱぐれるじゃないか」
「孝」
ミリヤが孝を怖い顔で睨んだ。
「冗談じゃないんだよ、これ
が」
「よけい悪いわよ」
二人が笑い合った。
真夏の、八月の日曜日。
燦燦と陽の光る朝。
ミリアがふった話題は
およそこの場所に似つかわしくない
ものだったのかもしれなかった。