(R6・予備) 民訴法再現答案

第1 設問1
1.裁判所は、L2の相殺の抗弁を時機に後れた攻撃防御方法(157条1項)にあたるとして却下すべきか。
2.(1)「時機に後れて」とは、訴訟審理の具体的な進行状況に照らして、より早期に、客観的に攻撃防御を提出することが期待できたといえる場合をいう。
もっとも、相殺の抗弁は、訴訟物以外の自己の請求権を犠牲にするものであり、実質的な敗訴ともいえる。さらに、判例は、基準時後の請求異議の訴えにおいて相殺権の行使を異議事由とすることも許容しており、被告に相殺の抗弁の適時提出を要求することは酷ともいえる。したがって、相殺の抗弁は、通常の抗弁に比べて、「時機に後れて」該当性の判断には慎重であるべきである。
しかし、相殺の抗弁は予備的に主張することができ、そのことで直ちに経済的な犠牲を伴うことにはならない。また、相殺の抗弁を提出すること自体は、通常、困難な立証を伴うものでもない。そこで、相殺の抗弁の提出が、「時機に後れて」にあたるか否かは、訴訟審理の具体的な進行状況に照らして、客観的に、より早期に、相殺の抗弁を提出すべきといえる特段の具体的事情があったか否かによって判断する。
(2)本件訴訟は、XがYに対して、300万円の売買代金債権を訴求しているものである。一方、YはXに対して、本件訴訟の請求額と同額の300万円の貸金債権を有し、弁済期は本件訴訟の提起前に到来しており、すでに相殺適状にあった。さらに、本件訴訟は、弁論準備手続に付されているところ、L2は実質的敗訴を認めて相殺の抗弁を提出するのであれば、それに備えて、すでに相殺適状にある上記貸金債権を自働債権として仮定的に相殺の抗弁を提出することは容易であった。確かに、Yが自ら請求異議の訴え(後訴)を提起して、相殺の抗弁を主張することは可能であるが、そうした事情のもとでは、Xが提起した本件訴訟を遅延させてまで、L2の相殺の抗弁を許容すべき理由はない。
(3)したがって、L2には、客観的に、相殺の抗弁をより早期に提出すべき特段の具体的事情があり、「時機に後れた」にあたる。
3.(1)「故意又は重過失」は認められるか。
弁論準備手続の終了後に、攻撃防御方法を提出する場合には、説明義務(174条、167条)が生じる。L2は、弁論準備手続の終了後に新たに相殺の抗弁を提出しているところ、前述のとおり、L2は弁論準備手続で相殺の抗弁を提出することが可能であった。しかし、L2は相殺の抗弁の提出について一般論の説明に終始するのみで、上記説明義務を果たしているとはいえない。
(2)したがって、相殺の抗弁の提出が時機に後れたことについて、重過失であるといえる。
4.(1)「訴訟の完結を遅延させることとなる」とは、時機に後れた提出を認めた場合に、それを却下した場合よりも、審理の期間が長くなることをいう。
(2)L2は、本件訴訟の結審が予定されていたその後の口頭弁論期日において、相殺の抗弁を提出している。そして、裁判所は、これまで本件訴訟の過程で審理されたことがなかった貸金債権の存在について審理するために、証拠調べの期日を新たに指定する必要がある。そうすると、相殺の抗弁を認めた場合には、それを却下する場合と比べて、審理の期間が長くなる。
(3)したがって、「訴訟の完結を遅延させることとなる」も満たす。
5.以上より、裁判所は相殺の抗弁を却下すべきである。

第2 設問2
1.Aは、Xからの本件訴訟の訴訟告知(53条1項)に応じて訴訟参加しなかったが、Aには補助参加の利益があり、Aは本件訴訟に参加したものとみなされる(53条4項)。
2.それでは、Aの後訴における主張は、本件訴訟の参加的効力(46条)によって遮断されるか。まずは、参加的効力の主観的範囲が問題となる。
(1)参加的効力の趣旨は、敗訴責任の分担責任であることから、参加的効力は敗訴当事者間で生じる。また、上記趣旨は、訴訟告知をした者と被告知者とが協力して訴訟追行を行う関係にある場合に妥当するため、利害関係が対立している場合には、敗訴当事者間でも参加的効力は生じないと解する。
(2)Aは、Xからの訴訟告知に対して、単に欠席して応じなかっただけであり、積極的な利害対立があったわけではない。そして、Xは、前訴において敗訴しているため、本件訴訟における参加的効力は、XとAの間に生じる。
3.次に、本件訴訟における参加的効力は、後訴のAの主張にどのように作用するか。客観的範囲が問題になる。
(1)46条は、参加的効力が生じない事由を様々設けており、既判力(114条)とは異なる効力である。また、訴訟告知によって参加した者は、理由中の判断について争うことが通常である。したがって、参加的効力は、判決の主文を直接導き出す理由中の判断にも生じると解する。
(2)前訴判決の主文は、Xに本件契約に係る売買代金債権が存在しないというものである。そして、前訴の争点は、本件契約に関する代理権の授与の有無及び表見代理の成否であり、前訴は、代理権授与表示による表見代理(民法109条)を請求原因とする請求である。そうすると、代理権の授与の有無の事実は主要事実にあたり、前訴判決においてXに代理権が授与されていなかったという判断は、前訴判決の主文を直接導く理由中の判断といえる。したがって、前訴判決の参加的効力によって、Aは後訴において、代理権の授与がなかったことと抵触する主張は遮断される。
4.以上から、Aの主張は、訴訟告知の参加的効力によって、排斥されるべきである。

※約3枚、約55分。

(コメント)
自己評価:B(周りの評価次第ではA〜C)

・設問1は、司法試験の過去問(R3)を、設問2はどこかの予備校の答練で類題を見かけたことがあったので、比較的取り組みやすかった。
・昨年度の反省を踏まえ(民法コメント参照)、ぱっとみ商法もたくさん書かせる問題の可能性もあったため、民訴を2番目に素早く片付けた。
・まだ審理されていない自働債権を当然に裁判所は審理しないといけないとか、単に欠席してるだけだから利害対立はないなど、ところどころ、積極的に不正確なことを書いている。
・相殺の抗弁は後訴でも提起できるから却下せんでもええやろという反論については、後訴のことまで考えるほど裁判所は親切ちゃうやろ・・・とそこまで深く考えずに否定した。



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