素晴らしき映画音声解説(オーディオコメンタリー)の世界 その2
前回のその1では個人的にオススメの音声解説を紹介しました。
本当の本当の基礎知識と注意点もこちらに。
今回はオススメの選外ながら、音声解説マニアとして是非触れておきたい音声解説4つ(シリーズ1つを含む)を、私が考えた賞を勝手に授与しながら紹介していきます。今回も本編のネタバレはなし。
ちょっと不安になるで賞
シザー・ハンズ(1990年)
解説者:監督 ティム・バートン
媒体:Blu-ray
いかにも話すのが苦手そうなティム・バートンが、頑張って解説しています。話自体はとても興味深いです。舞台となる住宅地の外観を、実際に人が住んでいる家の外壁をパステルカラーに塗って撮影した話には驚きました。あと、「郊外の人間はクリスマスの時期になるとタガが外れる」という話の下りが好き。
ただ、前半で燃え尽きたのか後半沈黙の時間が結構多くなります。最初はディスクの不良か、デッキの故障かと不安になってしばらくリモコンいじったりしてましたが、ただ解説の音声がないだけでした。あの時間返して??
こんなに沈黙が長いんなら、世界一沈黙の長い音声解説ギネス記録も狙えるのでは?と思ったけど、世の中にはもっと沈黙が長い音声解説もあるっぽいので、世の中そんなに甘くないんだなと思った。
でもティム・バートンは頑張ったと思う。こんなに頑張れるんなら「スリーピー・ホロウ」のBlu-rayでも解説してほしかった(実はシザーハンズよりも好き)。
チームワークが悪いで賞
ファイト・クラブ(1999年)
解説者:監督 デヴィッド・フィンチャー&俳優 ブラッド・ピット&エドワード・ノートン&ヘレナ・ボナム・カーター
媒体:Blu-ray
ファイト・クラブは人生ベスト級に好きな映画なんですが、この音声解説には落胆しました。でももしかすると、この映画がまあまあ好き程度の人なら普通の音声解説に感じられるのかもしれない。私の思い入れが強かったばっかりに…
あくまで予想ですが、監督と俳優陣が久しぶりに再会して「あー、元気にしてた?」と型通りの挨拶だけして、何となくぎこちないまま音声解説の収録始まった、みたいな気まずさを感じます。
そして終始斜に構えたブラピが空気を更に悪くしている気がしてならない。いや斜に構えたというか、単にやる気がないだけかもしれない。
デヴィッド・フィンチャーとブラピが同じくタッグを組んだ「セブン」の音声解説も確か盛り上がってなかった気がする。マジでほとんど内容を思い出せない。
あとデヴィッド・フィンチャーもそんなに饒舌じゃないしなーと思ったけど、あれ?監督単独で解説した「ゴーン・ガール」はそこそこ面白かった気がするな。
ということは多分、①久しぶりに集められた俳優達(②やる気のないブラピ含む)と監督が解説する③デヴィッド・フィンチャー過去作品という三拍子が揃ったときに初めて、面白くない音声解説が誕生するのかもしれません。
あんまり内容を覚えてないけど、ブラピが「シャイニング」に出てくるホテルの名前(オーバールック・ホテル)を知らなかったのがなんか腹立ったな。
古参ファンの神経逆撫でするで賞
スターウォーズ(ep1~ep6)
解説者:監督 ジョージ・ルーカス&キャスト&スタッフ(すみませんめちゃめちゃ多いので、これで勘弁してください)
媒体:DVD
この解説は多分、解説者達が一堂に集まっているわけではなく、それぞれの解説が別撮りされているものだと思われます。解説者たちの絡みがまったくないので。解説の流れはかなり自然ですが、絡みがないとやっぱり無機質で寂しく感じますね。
ただ、話している内容自体は興味深いので古参ファンにもおすすめ…できるかはわからない。
スターウォーズに1ミリも興味がない人のために説明しておくと、古参ファン(旧三部作と呼ばれるep4~ep6を崇めている人たち。年齢層高め)は新三部作(ep1~ep3 プリクエルとも言う)の作風の変化や自分達がSWに求めているものとのあまりの剥離に適応できず、プリクエルを認めていない人達が結構います。しかも、ジョージ・ルーカスは「特別編」というソフト版を作る際、旧三部作の劇場公開バージョンのあちこちに手を入れて(CGを最新のものにする以外にも、シーンそのものがまるっと削除され全く別ものに置き換えられたりもしている)古参ファンの大事な思い出である映像を壊したばかりか、劇場公開バージョンの映像自体を封印してしまったので古参ファンの激烈な怒りをかいました。
えーと、ここまで大丈夫ですか?ついてきてますか?ここら辺の事情に興味がある人は「ピープルvsジョージ・ルーカス」というドキュメンタリーを見てください。
で、解説に話を戻しますがプリクエルの解説自体は面白いし、何なら本編より楽しめるのでは?と思うのですが、解説者達が落ち着き払ってプリクエルのシーンの説明(「ここにはワイプを入れてみた」等)をしているのを古参ファンが聞けば「そんな話いいから何でこんなに面白くないのか俺らに説明してみろよ!!」と胸ぐらを掴みたくなるかもしれません。
そして旧三部作の解説では、差し替えたシーンをさらっと、ものすごくさらっと、「◯◯を△△に変更したんだ」とだけ言って先に進もうとするので古参ファンはきっと殺意が湧くでしょう。ブーン……(ライトセーバーを起動させる音)。
でも私は別にそこまでコアなファンじゃないし、小学生のときep1を普通に楽しんだ世代なのでこの解説はまあまあ楽しみましたね。
一番好きなのは、ep5の炭◯冷◯シーンにおける台詞についての攻防。もともと人気の高いシーンではありますが、この解説を聞いた後だとより胸が熱くなります。
内輪盛り上がりで賞
ロミオ+ジュリエット(1996年)
解説者:監督 バズ・ラーマン&美術 キャサリン・マーティン&脚本 クレイグ・ピアース&撮影 ドナルド・M・マカルパイン
媒体:Blu-ray
チーム・バズ(今考えた名称)の皆でわいわい解説していて、本当に仲が良さそうだなと思います。監督、脚本、美術、撮影担当が揃っていれば、語る話題はいくらでもあるし、冗談も言ったりするので情報量がかなり多い。お得な音声解説だと思うけど、メンバーが結構好き勝手に話すので終始わちゃわちゃしている。あと仲が良すぎて見ている方が疎外感を感じる。私ってここにいていい?みたいな。
本来バズ・ラーマンはリドリー・スコットタイプの喋りが上手い人なので、監督一人か、せいぜい彼の妻で美術担当のキャサリン・マーティンと二人がいいのでは?。でもバズ・ラーマンは自分のチームを地元オーストラリアくらい大事に思っていそうなので、みんなでやりたいんだと思う。しかも、俳優とか編集まで呼びたいと言ってたりもするし。流石に多すぎだろ。
でも、真のバズ・ラーマンファンなら普通に嬉しい解説だと思います。私の反応が特殊なだけ。オススメに限りなく近いんだけど過剰気味。まさにバズ・ラーマンの作風そのもの。
ちなみに「ムーラン・ルージュ」の解説でも同じメンツだけど、皆うって変わっておとなしくなった。ちょっと寂しいという人もいるかもだけど、このくらいが私にはちょうど良いかな。でも内容がオススメかと言われると…決して悪くはないんだけど…微妙だなぁ。あ、「ムーラン・ルージュ」はエンドクレジットの最後まで解説聞いてくださいね。
好きなところは伝説の「水槽見つめあいシーン」の撮影秘話とアロハシャツについての解説。
以上で授与式を終わります。
授与式後のまとめ
人によって音声解説の好みが違うと思いますが、私の好みは多分こんな感じです。
監督が参加している。
俳優はいなくて良い。
メンバーの仲がそこそこに良さそう。
人数は3人以下。
別撮りではなくメンバーが集まって収録している。
もちろん例外もありますよ!(マトリックスとかコンスタンティン)
あとメンバー同士のコミュニケーションや雰囲気は、ちょっとでもバランスを崩すと音声解説全体がダメになってしまいます。絡みがなくてもダメだし、気まずくてもダメだし、盛り上がりすぎてもダメだし、これだから音声解説は難しい。
あと、書きながら思ったんですが、映画の舞台裏なんて知りたくない!夢の世界を壊さないで!という人には音声解説は向いていないですよね。私も十代の頃はそんな感じだったんですが、映画を人の手で泥臭くつくりあげる側面が段々と好きになり音声解説にハマりました。
個人的には、映画はタネも仕掛けもある魔法だと思っています。タネと仕掛け=知恵と経験と労力とお金によって、人間が魔法を作り出せるっていいなぁと思うのですが、皆さんはいかがですか?
最後に、音声解説がついていたらBlu-ray買うのになーっていう映画をざっとあげてみると、
羊たちの沈黙、未来世紀ブラジル、アメリカン・サイコ、マルホランド・ドライブ(デヴィッド・リンチ作品群はムリだろうと知りつつも)、マルコヴィッチの穴、AKIRA、複製された男(ドゥニ・ヴィルヌーヴは今最も頭の中を覗いてみたい監督)、テイク・ディス・ワルツ、アンダー・ザ・シルバーレイク
あたりですかね。
調べていくうちに、Dr.パルナサスの鏡とアイ、ロボット(←この映画好きな人自分以外に聞いたことない)は音声解説がついていることがわかったんで、買おうかな…どうしようかな。
……取り敢えず記事終わらせてから決めますね。
長々お付き合い頂いてありがとうございました。
それではこの辺で。