ガチ素人廃線・廃道探訪録〈満地トンネル〉
前回までの記事を読んでくださった方はありがとうございます。そうでない方は初めまして。今回は都内に今も残る旧隧道をご紹介いたします。廃隧道じゃないんかい!というタイトル詐欺みたいな記事になってしまいましたが,今後もこの調子で,あまり現役・廃止の状態によらず個人的にいい感じ(語彙力皆無)だったスポットをご紹介していく形になりますのでご了承ください。例のごとく今回も,だいぶ浸かった写真,曖昧な記憶,並びにクソ雑魚机上調査が多量に含まれますがご勘弁を。
1.新満地トンネルと謎の道
さて,東京都に廃なスポット,まして隧道物件なんかあるの?とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかし東京の23区外,特に西側には標高2000m越えの言わずと知れた日本百名山が一角,雲取山を始めとした,標高1500m級の山々を有する関東山地に含まれる山がちな地形が広がります。また多摩川を超えた多摩地域の南側には多摩丘陵の中でも比較的標高の高い地域,北側には陸の孤島ともいうべき狭山丘陵も存在するなど,決して隧道と無縁な地域というわけではないようです。
今回はそんな東京の中にあり,現代までその姿をとどめている?貴重な隧道のうちの一本をふらっと探訪した時の記録をご紹介いたします。時は2021年9月某日,まだ残暑が厳しいこの季節に,これから日差しが激しくなろうという12:30ごろ,なぜかチャリをせっせと漕いできてしまった男が一人,八王子と青梅の市境を貫く新満地トンネルにやってきました。
黒い扁額に金色文字で示されたトンネル名,コンクリート覆工,あとはコンクリート製でのっぺりした台形の坑門という,平成生まれのトンネルによくみられる意匠をしています。このトンネルがあるのは八王子市左入町から青梅市友田町までの約14㎞を結ぶ滝山街道という路線²⁾です。その全線が一般国道411号線に含まれておりかなりの交通量を誇るのですが,このトンネルを含む滝山街道は概ね片側1車線の道路になっています²⁾。この付近一帯がはるばる奥多摩あたりから続く山地の末端といった感じのそこそこに起伏の多い地形となっているためさもありなんという感じではありますが,上の写真のように,タンクやトラックなど大型車は若干窮屈そうにトンネル内に入っていきます。その窮屈さたるや…
歩行者・自転車が締め出されるぐらい。残念ながら内部レポートはできそうにありませんね…(まあレポートするほど目新しいものがあるわけではありませんが)。
このトンネルが跨ぐ満地峠は標高232m³⁾。この国道411号線のほかに峠を越える道は圏央道ぐらいしかなく,それ以外は一度下って低地から多摩川を渡って大きく迂回するルートに限られます。
普段全く運動をせず肉体の衰弱が著しい筆者にとってはこの程度の登りでもかなり膝とか腰とか太ももあたりにキていて,「え゛っせっかくここまで漕いだのに下るの…」と汗をだらだら流しながら一人途方に暮れかけたところで,左側に脇にそれていく道があることに気づきます。
「新」満地トンネル…トンネルの脇道…自動車通行止め…この条件だけで,もうわかる人にはわかってしまうような気もしますが(笑)。とりあえず,手近で峠を跨げる可能性のありそうな道はこれくらいなので,先を確認しに行きましょう。
2.現れる異形の隧道
ここから先ですが,実はこの日かなり予定を詰め込んでしまっていて,忙しなく移動しながらの撮影だったため,全然写真が撮れていません。そのため,自転車のカメラの車載映像から撮ってきた画像も使わせていただきます。画質やブレがひどい写真も多々見られると思いますが,ご容赦ください。
国道411号から分かれた赤い路面の自転車・歩行者道は,非常に緩やかな勾配で高度を上げながら直進していきます。歩行者用道路にしてはやけに道幅が広々としており(具体的には,自動車一台は余裕で走れるぐらい),路面もしっかりしているので自転車で走る分には快適な道です。
前方の高くそびえる峠が作る影の中に,緩やかな勾配のまま突っ込んでいく線形の道。そしてその先には………
トンネル!
しかもこれは…
🐣TAMAGO🐣!!!
あと🧱レンガ🧱
3.満地トンネル
新満地トンネルの脇から伸びる,謎の赤い遊歩道。その先には異形の煉瓦トンネルがありました。
まぁ,「新」満地トンネルがあるなら,「新じゃない」方もあるよなぁ。そして,「新じゃない」満地トンネルへのアクセス経路であるこの赤い遊歩道こそ,かつて現役だった満地峠を越える国道411号本線でした。
隧道データベースの数値では,満地トンネル幅員・限界高ともに現役の新満地トンネルと同じです¹⁾。前後の車道も大体幅はトンネルと同じくらい。そりゃあ徒歩・自転車道にはオーバースペックなわけです。
というように数値上のスペックでは現役のトンネルと遜色ない本トンネルですが,その様相はずいぶんと異なります。まず何といっても特徴的なのはこの卵型の断面🥚。
通常多用されるトンネルの断面は馬蹄形という,上部が円形で下部が平らになっている断面なのですが,周りの地質からの地圧が特に大きいような場所では卵型の断面が使われることがあったそうです⁴⁾。おなじみ「山行が」ではボックスカルバートがこのような形をしている「沢井隧道」が紹介されていました⁵⁾が,満地トンネルのほうは全編通してこの卵型断面ですのでこれとは異なる事情があると考えられます。
現在は土木技術の進歩によるものか,こういった断面のトンネルが作られるのを見かけたことは(少なくとも自分は)ありません。もし平成生まれの道路トンネルで卵型の断面を持っているものがあれば教えてくださるとうれしいです。
強烈なインパクトのある断面の形に目が行きがちですが,坑門部分が煉瓦造りなのもいい感じ。夏真っ盛りの旺盛な木々に劣らず鮮烈な煉瓦の赤が映え視覚的に楽しいのは煉瓦造りの特権ですね。煉瓦の積み方はイギリス積みに強度で劣ると噂の長手積み。自分の撮った写真があまりに解像度が低くお見せできないのが残念ですが,扁額にもしっかりと「満地トンネル」という名前が刻まれていました。
それでは,いざ入洞。
延長は150mほどなので,自転車でゆるゆる走りつつあっという間に反対側坑門へ着いてしまいました。
残念ながら青梅側と八王子側のどちらにも銘板は見られず(筆者が見つけてないだけかもしれませんが)。しかしまぁ,(不可抗力とはいえ)この貴重なトンネルを取り壊さず開放してくれていたのは幸運でした。都内から手軽に訪れることが可能な煉瓦造り風の旧隧道,一見の価値ありだと思います。
…と,当時探訪した筆者は非常に満足のまま満地トンネルを去ったのですが,後から見返してみるといくつか気になることが。
4.満地トンネルの謎?
まず,そもそもレンガ造りの坑門はもともとの意匠だったのかどうか。もちろん中の巻立はその様子から後年の改修によるものだろうというのが見て取れるのですが,満地トンネルの竣工年度は1958年,すでにコンクリートを用いたトンネルが全国に普及している時代です。そんな時代にわざわざ煉瓦隧道を作るか?と言われると,まぁ,可能性は低いでしょう。ということは後年の改修によるもの,特に歩道・自転車道化した際の改修によるものである可能性が考えられますが,では当時の満地トンネルはどんな風貌だったのでしょうか?もしかしたら断面が卵型ですらなかったかもしれない…個人的には当時から卵型であってほしいのですが(謎の卵推し)。それと,もし現地で見た姿が改修された後のものならば,当時の面影を示す遺構は残っているのかも気になるところ。ここについては,実は一か所当てがあるのでそちらを確認しに行きたいところ。
それともう一つ気になったことが…
なんか…やけにこう,警備がされてるというか…。別に立ち入りが禁止されているわけでもない,というか歩行者・自転車道として現役であるはずの満地トンネルですが,謎のサイレンがついてたり「監視カメラ作動中」の文言があったりと,「できれば来てほしくないなぁ」という雰囲気が…。
まあ実は,こちらについてはちょっと調べればすぐになんとなく事情が読み取れたりします。住宅街に近い隧道ならではの,管理者の苦労が垣間見える問題をこのトンネルもまた持っているようです。
ここで挙げたげた当時の探訪ではわからなかったことについては,現地で確認したいことやちゃんと調べたいこともあるのでまた後日,後編として記事にしたいと思います。最後にいろいろと書きましたが,普通に通る分には非常に興味深く見る価値のあるトンネルだと思いますので,興味がありましたらぜひ訪ねてみてください。
5.今回の探訪ルート
今回の満地トンネルへの公共交通機関を利用したアクセス経路としては,JR青梅線小作駅かJR五日市線からバスで12分ほどの「菅生」というバス停で降りるというルートがあります。車で行く場合国道のすぐ脇なのでたどり着くこと自体は容易ですが,近くに駐車場がないのでどこかの駐車場で止めて歩いてくる,ということになり少し大変かもしれません。筆者は自転車で探訪しましたが,前後の車通りが多い車道を走らなければいけないのであまりお勧めできません。
6.次回予告
???「フフフ…奴は東京都旧隧道四天王の中でも最弱」
???「素人ごときに踏破されるとは旧隧道の面汚しよ…」
※上にあげたうち2つは現役の旧隧道で誰でも通れます。
〇参考にしたサイト様
1)隧道データベース
2)「滝山街道」道路WEB
3)峠データベース
4)「トンネル」Japanknoledgeホームページ
5)「隧道レポート 神奈川県道522号棡原藤野線 沢井隧道 探索編」山さ行かねが
6)google map
7)googleストリートビュー
8)地理院地図
長時間の閲覧お疲れさまでした。
それでは,またどこかで。