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大寒波に19歳の温水器が音をあげた
身を切るような寒さとはこのことか。
喜び庭駆け回るはずの愛犬も、雪の積もった庭に一瞬出て、秒で玄関に駆け戻ってきた。
むりに散歩に連れ出すと、途中で止まって動かなくなり、ブルブル震えて哀願する目で私を見上げてくる。
手を差し出すと、よろこんで抱っこをせがむ。
結局、ふところにくるんで急ぎ足で家にもどった。
あたたかい家にはいると、やれやれママの散歩につきあわされたぞ、まいったまいった、とでも言いたげに目をすぼめて一点を見つめている。
だれが大寒波の中好き好んで、外を出歩きたいものですか。
だいたいが、あなたドイツ、ポーランドのご出身でしょ。
そのもふもふの毛皮はフェイクですか。
空調のきいた日本の屋内犬は、十年に一度の低気温にはまったく対応できなくなっていた。
そして、もうひとつ氷点下の気温に対応しなかったものがある。
温水器である。
朝、お湯が出ない。
昼、お湯が出ない。
夕方になっても、お湯が出ない。
昨日の最低気温はマイナス6度。
凍った。
電気温水器の水道管が凍ったんだ。
なんてこと。
家の裏のご老体を見に行った。
家を建ててから、19年。
一度も不平不満をいうことなく、1日もかかさずお湯をはき続けてきた御大は、とくだんいつもと変わった様子も見せず、そこにたたずんでおられた。
エコキュートなるもののように、四角四面なやつではない。
人の身長をはるかに超える円筒形の優美な曲線を描いた立ち姿である。
ただ、19年の風雪とともにいくぶんくたびれたご様子ではある。
何本も突き出たパイプのたぐいが、今にももげ落ちそうな緊張感をはらんでいる。
最近、たびたび訪れるリフォーム業者が口をそろえて言う。
「このタイプは久しぶりに見ました」
生産中止とまでは行かないものの、過去の遺物、昭和の遺産とでも言いたげな口ぶり。
うちは、電化製品の寿命が長い。
家を建てたときに買いそろえたものがいまだに現役で働いている。
最初におだぶつになったのは電子レンジだが、17年も使った。
IHも食洗機もいまだ現役だ。
電気温水器だって、修理したことさえない。
ただし、さすがにそろそろ勇退してもらおうと、リフォームを検討しているさなかの今回の大寒波。
もう少し、もう少しだけ、がんばって。
あとちょっとで、リフォーム決まるから。
いつ壊れてもおかしくない。
そんなギリギリのところで踏ん張ってくれているのに、大寒波から守ってあげられずごめんなさい。
だいたい、外の水栓にせっせと凍結予防の処置をしたのに、なんで電気温水器にはなんにもしてあげんのや。
いや、それはそれで必要。
愛犬の散歩に行って、滝となって流れる水道管破裂の激流を見てきたばかりだ。
しかし、このままではお風呂に入れない。
なぜ、1番肝心な電気温水器を保護してないんや。
保護材が破損して、水道管の一部が露出しているじゃないか。
祈るような気持ちで、壁につながる水道管にお湯で湿らせたタオルを巻き付けた。
急ぎ、室内に戻り、レバーをお湯にまわして押し上げた。
ごぼごぼ、ごぼっとぐずるように空気を多めに吐いたあと、ジャーとお湯が出始めた。
はぁーーーー。
ほっとした。
全身の力が抜けた。
また、ご老体は生き延びた。
と、思ったのもつかの間。
入浴しようと、浴槽にお湯を張ろうとすると、細い。
水圧が弱い。
いつもの7割程度か。
湯温は高いが、なかなか溜まらない。
日頃から長湯の習慣で、途中お湯を追加する。
なんとも心もとなく、しょぼしょぼとしかでない。
不安の種は消えない。
リフォームは、決断する時機をのがしている。
つぎつぎと見積もりを依頼し、どこかしらにけちをつける混沌の沼にはまっている。
リフォームを決断するのが早いか。
温水器の寿命が尽きるのが早いか。
まったなしのカウントダウンがはじまっている。