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「小説 雨と水玉(仮題)(25)」/美智子さんの近代 ”万博公園その1”

(25)万博公園その1

二人で公園正面入り口に向かって歩きながら、
「入園料かかるんですね、
田中さん、お互い社会人だから割り勘にしましょう、それでいいですか?」
「はい、それで、それがいいです。」

チケットを切ってもらって公園に入っていくと前面に太陽の塔が大きく現れた。
「ぶらぶら歩きながら、座れるところを見つけてお話ししましょうか?」
「はい、あのお、わたし敷布も持ってきたんでベンチでなくても、
適当な芝生のところで大丈夫です。」
「ありがとう、ホント田中さん、もう気が利き過ぎてて。
あの、僕の方は、もう本当に気が利かないタイプの人間で、、、、、
最初から謝っておきます。」
美智子がちょっと啓一の顔を覗き込むように、
「よく知ってます。ふ、ふ、ふ(笑)」
「そうか、そうだねえ、ハ、ハ、ハ(笑)
あのお、荷物重いでしょ、持ちましょう。」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、お願いします。」

しばらくいくと、綺麗なコスモス畑が見える芝生のところに木蔭があった。
「今日は天気のせいか日向は暑いので木蔭にしましょうか?」
「ええ、そうですね」
「じゃあ、この辺にしましょう。」
美智子が敷布を出して、場所を整え始めた。
「田中さん、こっち持てばいいですか?」
「ええ、そうですね、そこを引っ張ってください。」
「はい、これくらいかな」
「はい、大丈夫ですそれで。
座りましょうか。荷物頂けますか?
はいありがとうございます。それではよいしょっと。」
美智子が荷物を下ろして座ったので、啓一も一緒に座った。

「佐藤さんは会社を変わって今日は東京からいらっしゃったんですよねえ?」
「ええ、前は広島にいたんですけど、今は東京のC社っていう会社に勤めてます。
田中さん、知ってますか、C社は?」
「ええ、知ってます。」
「去年の7月に転職して漸く慣れて最近は残業も多いんですよ。
あのお、田中さん、早速なんですが、お話ししていいですか?」
美智子がこっくりと頷いたので、
「お手紙の繰り返しになってしまうかもしれませんが、最初から言わせてもらいますね。
出会った時から僕は田中さんのことを素敵な女性だと思っていて、いつの間にか好きになっていました。もちろんいろんなことが有ったからですけど。
それで二年半前デートを申し込んだわけです。
ただその時、一方的に熱を上げ過ぎていて神経過敏な状態だったんですね。
自分しか見えてなくて。
すみません。
田中さんが、僕がその一年前に『雨に唄えば』について話したことを覚えててくれて、それで水玉を着て来てくれたなんて思いもよりませんでした。
でも、要は意気地がなかったということですね。
本当にごめんなさい。」
「あのお、一つ質問していいですか?」
「ええ、なんでも」
「わたし、佐藤さんは○○さんとお付き合いしていると聞いていました。」
「ああ、そのことですね、田中さんと知り合うのが五年前ですよねえ。
その三年前に○○さんとは少し付き合ったんですけどすぐダメになりました。」
「そうだったんですか、知りませんでした。」
「ええ、そうだったんです。
だから、田中さんとのデートまで彼女いない歴三年以上でした。
まあ、その後も彼女はいませんからもう五年以上ですが。
あっ!うそをついてはいけないんで言っときますが、
実は今の会社に転職して去年の夏に知り合いの人に強引にお見合いみたいなことさせられて、その時の彼女とは三回ほどお会いしました。
でもその気に成れなかったんで丁重にお断りしました。
お恥ずかしいかぎりです、
でも田中さんには正直にお話ししたいと思って、今日はここに来ました。
だから何でも訊いてください。」
「ありがとうございます。すみません、詮索みたいな質問で。」
「いえ、それで結構です。なんでも質問してください。
僕は何でも答えなきゃいけないんですから。
田中さんに対して本当に失礼で不快になるようなことをしたんです。
本当にごめんなさい。
でもずっと田中さんのことを心から大切に思っています。そのことに間違いはありません。
その気持ちに免じてもらって、どうか田中さんの気持ちの中にしこりがあるなら、そのしこりを少しづつでも和らげさせてもらえませんか?
何度でも大阪に来ます。
お付き合いしていただきたいんですが、しこりが取れるまでと田中さんが言うなら、それまで何度でも来てお話ししますので。
それまではお付き合いでなくても構いません。」
「?、えっ、お付き合いではないんですか?」
「あ、いや、そういう意味ではなくて、
あ、いや、どう言ったらいいのかなあ?」
「ふ、ふ、ふ(笑)、
わたし、わかりました。
お付き合いしながら、二年半前までのことやこの二年半のこと、
それからこれからのこともたくさんお話しさせていただけませんか。
それで良かったら、是非お付き合いをお願いします。」
「えっ、本当ですか、ありがとうございます。是非お願いします。
ああ、嬉しいなあ。ありがとう。もうほんまに嬉しいです。」
「わたし、お手紙を頂いて、今日来るまでにもお電話で佐藤さんとお話ししてそうしようって思ってたんです。
でも本当に決めたのは新幹線のところで逢った時です。
佐藤さんが水玉のことを気付いてくれて、もう絶対そうしようって決めました。」
「ありがとう、本当にありがとう。めっちゃ嬉しいです。
でも、何でも訊いてください、
本当にいろいろなことをお話ししたいんです。お願いします。」
「はい、わたしも是非お願いします。
あの、サンドイッチ食べませんか?お腹空いてきちゃった。」
「ええ、僕も」

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