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「創薬におけるの低分子医薬モダリティについて」/技術的側面を加えて

先日、「創薬における旧モダリティの低分子医薬について」/オワコン?、復権?という記事を掲載しました。
AnswersNewsの黒坂宗久さんのコラムを紹介し、ニーズ面、開発トレンド情報から、旧来のモダリティである低分子医薬については、決して終わったものではなく、今後も創薬の主役として十分生き続けるだろうことが示されていることが記されていることを示しました。

低分子医薬の概観調査

今回は、低分子医薬のこれからについて長い経歴を持つ有機化学者の立場から、技術的側面について少し調査を行ったことを書いてみようかと思います。あまり詳細なというより、概観レベルでわかりやすく書いてみるつもりです。
参考にしたのは、

中外製薬R&D説明会 2021年12月13日
https://www.chugai-pharm.co.jp/cont_file_dl.php?f=FILE_1_121.pdf&src=[%0],[%1]&rep=117,121

ですが、ここに掲載しませんが他にも読んだ資料は複数あります。

低分子医薬の技術的側面/抗体医薬の登場とわけ、その今

三十年ほど前までの医薬と言えば、低分子医薬が当たり前でした。それがこの二十年ほどですっかり状況がかわり、最も知られているバイオ医薬として抗体医薬がスターダムにのし上がってきたという状況があります。
この抗体医薬は、疾病標的ターゲットに直接にしかも高選択的に攻撃を行い、疾病治療するという特徴があり、そのために今日医薬の中で大きな領域を獲得するに至っています。
しかし、この抗体医薬は抗体という巨大なタンパク質であるため、細胞外の標的ターゲットに対して狙いとすることができると言うことになります。そのため、単純な細胞外標的についてはかなりその抗体医薬が開発されて飽和とまではいきませんが何もかもすべてに対して抗体医薬という時代は過ぎたと言われています。
ただ、その抗体医薬の技術も抗体医薬複合体、抗体における複合技術であるバイスペシフィック抗体、リダイレクティング抗体、スイッチ抗体、リサイクリング抗体(抗体複合技術についてはいずれも中外製薬HPから)など複合化という鉄案コンセプトによる技術拡張、市場拡張が図られています。

スターダムの抗体医薬が利かないターゲット

この抗体医薬は前述したように、細胞内標的ターゲットに対しては働くことができません。残された疾病標的ターゲットのかなり多くは細胞内に存在しているということです。その細胞内標的に対しては、抗体医薬のような高分子医薬ではなく、低分子医薬でないと細胞膜を透過して標的にミートすることができないわけでもあるわけです。
もちろん、そういう細胞内と言わず細胞外と言わず低分子医薬はこれまでどんな標的に対しても開発が続けられてきたことは変わらないわけですが、昨今のバイオ医薬の進展が疾病標的メカニズムを次々明らかにしてきたことによりこれまでわからなかった標的ターゲットが次々現れて来たり、従来のターゲットが見直されてきたりと言った技術進展により、狙いとする可能性が広がってきたということが有ります。
そういうもののなかに、タンパク質相互作用に関する標的ターゲットがあり、特にその標的ターゲットに焦点を当てているらしいのが、いわゆる中分子医薬と言われるものです。中分子医薬とは、一口で言って低分子医薬の範疇に入るが少し分子として大きめのモノを言います。そしてもちろん細胞膜を透過することが可能で細胞内標的をターゲットとすることができるもので、その代表が環状ペプチドというもので、ベンチャーのペプチドリームや中外製薬などが開発に力を入れています。

一方で低分子医薬のここ20年ほどのトレンドを追ってみると、総じて低分子医薬の分子量が大きなものに推移してきているというトレンドが明らかに見て取れます。
このトレンドも実は、上記したような新しく明らかになったり見直されたりした疾病標的ターゲットに対するために、分子を大きくして対応する必要があったという蓋然性を表わしていると思います。

ある制約はありつつも低分子医薬は分子を大きくすることで標的ターゲットに対応していける

これまでは、RuleOfFiveという低分子医薬の制約がまことしやかに法則性を持っているとしてきました。

それは、分子量500未満、脂っぽすぎない(PlogPが5以下)、水っぽすぎない(水素結合ドナー数 5以下、水素結合アクセプター数 10以下)なるRuleOfFiveであり、それは医薬とするに非常にわかりやすく高効率な開発法則でした。しかし、近年分子量が500未満でなければならないということではないということがわかって来て、多少大きくても分子によっては医薬たり得て細胞内標的にも対応可能であるということであるわけです。
そういうことがわかってきた現今において、低分子医薬は、その有機化学的メリットを生かす可能性が改めて出て来ているということが言えるのだと考えられます。
こういう情勢と言うのは、以前のコラム記事で申し上げた通り、その有機化学の側面から考えた時の物質世界の広がりの特徴は、三次元的に見た時、その数学的広がりの無限性にありまた、機能面から見た時、複合化をはじめとした手法論による多様性が有益に機能し得るということを示している証左と言えます。
まさに、先日の本コラム記事で申し上げた結論が、この技術的側面における調査において改めて確認できたと思っています。


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