「フッ素含有農薬医薬の多さの理由」/類似性(ミミック)、代謝阻害、疎水性
以前に、『フッ素化学入門<2010>基礎と応用の最前線』(三共出版)について紹介しました。
フッ素について
これに記されているように、フッ素含有農薬医薬が意外に世の中に多いということについて述べてみたいと思います。
ここでまず、フッ素という元素は非常にユニークであるということが前提とあります。非常に小さいが非常に大きくわがまま(EGO)である、という言われ方をしたりする元素ですが、天然に存在する有機フッ素化合物は非常に希少でまあほとんど存在しないと言ってよいかと思います。
有機フッ素化合物
そういうことですので、有機フッ素化合物はほとんどすべてがartificial、つまり人工的に合成されたものだということになります。
普通、医薬農薬ということ言いますと生体機能との相互作用を有するわけですから、なんでフッ素がという感じもするのですが、2010年出版の『フッ素化学入門<2010>基礎と応用の最前線』の時点で、医薬で全体の18%、農薬で23%という生体に存在してないにしては特異に多いと言うのが実態です。
現在すでにそれから10年以上が過ぎていますので、この割合はもっと多いものになっていると思います。
農薬医薬にフッ素化合物が多いのは
まず有機フッ素化合物といえば、炭素ーフッ素結合を有する化合物ですが、この結合の特徴として、非常に結合エネルギー(E)が大きく安定で、しかも結合距離が水素並みに小さいということがあります。
また、フッ素という元素は、塩素(Cl)や臭素(Br)、ヨウ素(I)といったハロゲンの仲間ですが、実はハロゲンの仲間よりも性質しては、酸素に近いということがあります。
したがって、有機化合物に多い炭素ー酸素結合と炭素ーフッ素結合は似ているということになります。
1)炭素ーフッ素結合は、炭素-水素結合、炭素ー酸素結合と似ている
以上、述べた、炭素との結合の点で、酸素や水素に類似しているということが一つの重要ポイントになります。
2)炭素ーフッ素結合は、結合Eが大きく安定で、ちょっと疎水性が強い
そしてもう一つが、炭素ー酸素結合や、炭素-水素結合と比べ、フッ素の場合結合エネルギーが大きく、また疎水性が強いという違いがあります。
農薬医薬にフッ素化合物が多く使われているのは、以上の1)と2)の二つの理由によると言ってよいことになります。もちろん専門的には種々複雑な機構が想定されていたりしますが、簡単に言えば、1)と2)が主要因で、1)の方では、生理活性を有する有機化合物の炭素ー水素結合や炭素ー酸素結合部分にフッ素が置き換わって、生理活性を有する性質が現れやすいということ、それから、2)の方では、例えば結合エネルギーや疎水性が強いために酵素による代謝を受けづらく生体の中での効果寿命が延びる、と行ったことがおきるということ、これらによるために、有機フッ素化合物が医薬農薬に使われやすくなっているということになります。
もう少し専門的な側面で言うと、医薬などの場合、まず効果のあるリード化合物が見つけ出されて、それから毒性や効き目の改善をして人間に投薬するのに耐える類似化合物が合成開発されて完成するわけですので、リード化合物の利点を持ちながら欠点、例えば安定性不足や効き目不足をフッ素を用いることで改善することができて来ているということになります。
これからも医薬農薬にフッ素が使われ続け、増えていく
以上述べてきましたように、これからも医薬農薬にフッ素が使われ続け、増えていくということになります。
そういう意味で若い化学や薬学専攻の学生さんなどは、よくフッ素化学について学んでいただきたいと思います。
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