「出生率低減と歴史人口学 『歴史人口学で見た日本』(文春新書)速水融 を読んで」
エマニュエルトッドから速水融
エマニュエル・トッドについては本コラムで度々触れてきている。大著「我々はどこから来て、今どこにいるのか?」についても度々触れてきている。
上記の既報前者では、日本の出生率低減、人口減少に着いて議論した。日本が現今直面する課題として、最も大きな課題である。これについては他の記事でも記してきたが、識者やメディアで全く議論が足りていないし、日本人自身の危機意識も不足しているのが現状と言わざるを得ない。
エマニュエルトッドがたびたび日本の歴史人口学者として高く評価している人に文化勲章受章者である、慶應の速水融(1929-2019)がいる。
江戸時代の宗門改帳を紐解き、江戸時代からの日本の家族構造を明らかにしてきた泰斗である。
『歴史人口学で見た日本』(文春新書)速水融
最近、文春がエマニュエルトッドからの惹きで速水融の代表的所見概要を出版してくれたものらしい。
概観するには非常に良い著作で、ある程度具体的な学術所見もわかるようになっていて、非常に興味深かった。
ここでは、出生率低減・人口減少に関わるものについて記しておきたいと思う。
エマニュエルトッドは、日本の出生率低減について、直系家族で女性の地位の低いことを家族構造の考察から結論付けている。ただその父系レベルはChinaや中東などに比べて高いわけではなく、ドイツ、スウェーデン、ノルウェイやフランス南西部など同等なのである。
これはドイツとも直系、女性の地位に関する部分は同様で出生率低減の原因となっているとのことであるが、ドイツは移民によって人口を維持しようとしているのに対し、日本は十分な移民を受け入れていない状況なのだそうだ。
家族構造的な部分については、やはり歴史的な経緯による部分が大きく、それをこの「歴史人口学で見た日本」により知ることはできる。
この著作の中で、わたしが気付いた部分について、2点あげておきたい。
日本の出生率低減に関して『歴史人口学で見た日本』からの観点二つ
一つ目は、速水氏の初期の研究成果である、諏訪地方の江戸時代初期の状況についてである。
江戸時代初期は、実は戦後の高度成長時代ほどでないにしろ、戦国の戦乱の収束により、新田の開拓や都市の発展により高度経済成長時代であったということだ。それが17世紀初めくらいまで続き、諏訪地方では田畑が増え、核家族化が進み、人口が増えたということが明らかにされている。
つまり、経済が成長すれば、核家族化が進み、出生率が向上し人口が増えるということである。
当たり前、と言われるかもしれないが、重要な点は日本の出生率低減がバブル崩壊後の経済成長ゼロの三十年で起きていることであり、私はこのことに特に注目しなければならないと思っている。エマニュエルトッドはそのあたりの議論が十分でない。
二つ目は、この書の最後部に記載されていることだが、日本が大きく見て三つの家族構造を有する文化圏に分かれるという点である。
文字通り直系家族を形成する東北東日本、それより核家族に近い中央日本と西南日本の三つである。
西南日本は、海からの文化移入と思われる東南アジア的要素があり、多離婚で多婚、婚外子も多いということである。
中央日本は、その中間的といえば中間的で、離婚は少ないが多子、核家族要素のかなりある文化圏であるという。
出生率減少への視点
以上上げた二つの視点は非常に重要だと考えられる。
一つ目は経済ファクターで、本当に当たり前のことなのだが、
例えば経済成長率と出生率の相関を社会科学的に検討してみれば、この三十年の日本の低出生率が如何に低経済成長に深くかかわっているか、がわかるのではないかと思う。
識者、学者の表立った議論と活躍がこれほど待たれるときは無いと思う。
二つ目の点は、日本人の意識の問題があると思う。自己認識を改める必要な部分もあるのではないか。
日本文明の基底にある中央日本から西南日本の楽天的で融通無碍な文化をもう一度再認識して、明るく未来を作っていこうとする社会の雰囲気を取り戻す必要があると思う。
これからも出生率低減・人口減少については記していきたい
これからも、さらに書物や資料を私なりに調べ、このブログで引き続き記していきたいと考えている。
皆さんの建設的なご意見など寄せていただけると非常に有難いと思っている。
よろしくお願いします。
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