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「小説 雨と水玉(仮題)(61)」/美智子さんの近代 ”振り返ると”

(61)振り返ると

啓一はその晩美智子に二週間後の土曜にO夫妻と会食することになったと伝えた。今週末のことを改めて相談したが、イベントが続いて疲れもあるので久しぶりに動かずそれぞれ東京と大阪で準備を進めるということにしようということになった。

結婚式の招待状も二人がそれぞれの招待者に宛名を書いて、すべてその週に発送まで済ませることができた。
同じ週末、啓一は新居の家電類を見ることにしたが、土曜日曜とも美智子に電話連絡してなにくれとない進捗や気付いたことなどは怠りなくお互いに確認するというふうにした。認識のギャップはすぐに生まれ、何かの拍子に大きくなることもあるので注意が必要だと思っていた。

翌翌週の土曜、啓一はいつものように昼くらいに着くひかり号で新大阪に着いた。二週間と会わずにいたのは付き合い始めてはじめてだったので美智子は新大阪駅まで来てくれた。電話は二日とおかずしていたが、久しぶりに逢う美智子は春の空気に包まれて一層美しかった。
その日は薄い青紫のジャケットと水色のシャツに白地に黒の水玉のロングスカートで春の爽やかな風に小さく揺れるスカートがとりわけ愛らしかった。
「今日の服装は水玉は僕にとっては最高だし、春らしくいっそう爽やかです。」
「ありがとう」
「水玉はワンピースではないんですね?」
「ええ、ふ、ふ(笑)」
啓一は美智子が笑ったのが少し気にはなったが、久しぶりで手をつないでみると明るいほのぼのとした春の街を行く気分が先立った。

Oとの約束は夜六時だったので、その日は昼の時間は梅田から御堂筋、中の島公園を久しぶりでブラブラとすることにしていた。昼食は軽くファーストフードで済ませて春の空気を吸いにすぐ外に向かった。
明るい日差しの中で隣りを見ると、日に映えて白く透き通った可愛い表情の美智子がキラめくように啓一の目に飛び込んでくる。
美智子にとっても、今日はしきりに啓一がこちらを向いて優しい目を向けてくれることが嬉しかった。
結婚の準備の忙しい日々が続いて久しくデートを満喫するタイミングがなかったことや二週間ぶりに逢ったという条件が二人のこころを浮きだたせていたのかもしれない。
たくさんのしなければならないことを進めるため、ことさらに理解し合うように言葉を重ねてきたこれまでと比べ、この週末は今夜、気の置けない友人との約束があるだけで何か久しぶりにほっとするような二日間だった。そのためか啓一と美智子はいつになく言葉少なでしきりに顔を見合わせるだけと言ってよい時間を過ごしていた。

「ねえ、啓一さん、わたしたち、ずっと将来のことをたくさんお話ししてきたけど、今日はいままでを振り返ってみる日なのかもしれない。そう思わへん?」
「しかし十月からここまで二人でよくやってきたね。ありがとう。」
「こちらこそ。
あのね、わたし言ったのはね、もう少し前からのこと」
「ああ、そうやね。ほんまよくここまで。
出会ったのは六年前の豊島公園やね、それから美智子さんに惹かれるようになって。
そしてもうちょうど三年前になるねえ、あのデート。
あの時からよくまあここまでこれたなと。ほんまに不思議な感じがする。
でも、これもすべて、こんな僕を受け入れてくれた美智子さんの人柄だったと思う。本当にありがとう」
「そんな、わたしが振り返るって言ったことから、そんなふうに持っていくの、違反やは、もう、、、」
美智子は顔を伏せてしまった。

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