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「小説 雨と水玉(仮題)(39)」/美智子さんの近代 ”転勤の可能性その2”

(39)転勤の可能性その2

翌土曜日は、梅田で昼食をしてぶらぶらしようということにしていた。
師走の賑やかな時期になって、クリスマス気分が大阪の街にも横溢していた。華やかな浮かれた中にあったが、二人にとっては美智子の仕事がどうなるかが最大の関心事だった。
「水曜日に電話でお話ししたように、先輩の英子さんという人に以前のことを当たってもらうことになってるんですが、
昨日、以前に東京に転勤した人のことが少しわかって教えてくれました。」
「うん、どうだった?」
「親御さんの関係で東京に転居しなければならなくなって、ということだったようなんです。英子さんが言うには、もう少し当たってみるけど、東京の銀座支店か渋谷支店に店員の空きがあると可能性はあるかもしれないと。」
「なるほど、タイミングが合えば可能性はあるかもしれない、ということか。
あとは、規則とかで決まってるといいんやけど、その辺はわからへんの?」
「ええ、それはどうも規則にはなってないようで。
たぶん、そこの壁はあるかもしれません。」
「うん、そうかあ、なるほど壁があるかあ。
でも可能性が有るということはわかったので、もう少し調べてもらって、どういう風に話を持っていくかかな。その作戦も考えた方が良さそうやね」
「ええ、そうです。ただまあ、正直に仕事を続けたい熱意を伝えて、最終的には当たって砕けるしかないかもしれない、、、、」
「うん、もちろん最終的にはそうかもしれない。
でも時間はあるんやから慌てることはないと思う。いろいろな手を考えてベストを尽くそうよ」
「はい、そうですね、高坂先生にまた相談に行ってもいいなあとも思います。」
「うん、そうそう、時間を掛けてもええから、よりいい道を探ろ
それから、あんまり深刻に考えてもよくないんやろうから、
真面目にやるけど、楽しも、
神経すり減らすのが一番身体に良くない。
な、そうしよ」
「そうですね、そうそう、ふ、ふ、ふ(笑)」
「でも英子さんていう先輩、有難いねえ。
なかなかそこまで親身になってくれる人、いないと思う。
美智子さんがしっかり仕事しているからやろうねえ。」
「いや、わたしはともかく、
英子さんはもうほんまにすごい人です。あのT先生にひでちゃんって言われてメチャ信頼されてて。わたし、ああいう人になりたいなあって思う。まだ英子さんの年まで二十年くらいあるんで努力次第かなあって思ってるんですけど」
「うん、そのとおりやと思う。
美智子さんがそういう書物の世界でやっていこうというのは僕は大賛成、
実は僕もちょっと興味ある。」
「えっ、そういえば啓一さん、サマセットモームが好きだって言うてたでしょ、
あれは?」
「うん、ほら、T先生のお友達の作家のKさん、僕好きなんだけど、
Kさんがモームはいいっていうんで僕、何冊か読んだことあって」
「へええ、何が良かったの?」
「うん、『人間の絆』はずしっと胸の中に入ってくる感じでいいねえ、救われたような感じがした」
「そうなんや、へーえ、理学部の人とは思われへん。
啓一さん、ほんまに意外性ある。意外性の男やわ、ふ、ふ、ふ(笑)」
「なんか、褒められてんのか、くさされてんのか、
あっ、ちょっと切り返しとこ、
あの、美智子さんのそのモームに関する卒論、いっぺん読ませてよ」
「えーっ?、それは、ちょっと」
「は、は、は(笑)、でもいつか読ませてもらうよ、ハ、ハ、ハ(笑)」

「あの、美智子さん、クリスマスプレゼントなんやけど、
僕、気が利かへんからあらかじめ話しておきたいんやけど。」
「?」
「ほしいモノがあれば言ってほしいし、思いつかないんやったら、
例えば指輪とか、
あっ、その婚約指輪は別やからね」
「ふ、ふ(笑)、わたし、何でも嬉しい。」
「ありがとう、そう言ってくれると気ががすーっと楽になる。そしたら指輪でいいかな」
「はい、
あの、わたしは洋服買ってあげたいんですけど、それでいい?」
「ああ、もうそれは嬉しい。
なんか、ホッとした。そしたら来週くらいに一緒に買いに行くってということでいい?」
「はい!」
啓一は美智子がため口で話してくれているのに心地よさを感じていた。


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