「小説 雨と水玉(仮題)(21)」/美智子さんの近代 ”手紙”
(21)手紙
たか子は、美智子から連絡を取ってみた方がいいと言う。
上手く行くにしても違うにしてももうはっきりする方が良い、考え過ぎても良くない、早く次に向かってやっていくことが大事、と言った。
妹にしては良くわかっていると思う。頼りになると言えば頼りになる。
もし美智子が相談される側であってもそう言うかもしれないと思った。
でも、自分の問題であるかぎり、そう冷静になれるものでもない。いろいろなことを考えてしまう。
少し時間をかけて考えてみよう。少しだけ。
翌々日月曜日梅田のお店に出勤し、忙しい一日を過ごして気がまぎれた。夕方定時に仕事を終わり阪急電車に乗り曽根で降りていつもの道を帰ってきた。
「ただいま」
奥でたか子の、お姉ちゃん帰ってきた、という声が聞こえた。
慌てて出てきたたか子が小さな声で、
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、はよ部屋へ行こ。」
「なに、なに、どうしたん?」
「彼氏から手紙来たよ、速達で。」
「エっ?」
「はよ、はよ、」
促されるように部屋に入ったがドキドキしていた。
「ちょっと、こっちに頂戴。」
「ハイ、どうぞ。確かに彼氏からやろ。
どうする?わたしは外に出た方がええ?それとも一緒にいてあげよか?」
「ああ、どうしよ?
ちょっと待って、、、、
やっぱり居ててもらう。そうして、頼む。」
「よっしゃ、わかった。」
ハサミで封を切り、手紙を出してみた。八枚にびっしりと書き込まれていた。
「わ!、すごい枚数やわ、お姉ちゃん。
良―く読まなあかんよ。」
「うん、
なんか、読みたくなかったらすぐ捨ててもいいって書いてある。」
「そんなことない!良―く読むから。読も、読も、早う先を読も!」
「うん、次は二年半前のことを謝りたいって。えっ!その前に先週の金曜に偶然会った時のことが書いてある。わたしが佐藤さんのことをストーカーと思ったかもしれないって。」
「なに?少し変な人やね、彼氏。まえ、ええわ、次、次」
そうやって入念に読んでいくと、
二年半前には意気地がなくて美智子に好きだと言えなかったこと、
先週金曜に会ってから突然、あの時美智子が着ていった水玉のワンピースの意味に気付いたこと、
五年前から好意を持ってくれていたこと、
今も好きで付き合ってほしいこと、
会ってほしいこと、
そして最後にくどいほどに美智子にその気がないなら諦めるということ、等々が丁寧な文体で書いてあった。たか子といちいちそれらを確かめながら聞き、受け答えしながら二人で誤解の無いようにしっかりと内容を理解した。
「で、お姉ちゃんにどうしてほしいって?」
「会ってくれるなら連絡してほしいって書いてある。」
「どうするの?もちろん会うやろ?」
「うん」
「早く返事せな。」
「うん、すぐに手紙出したほうがいいなあ」
「それはそうや。で、これだけはっきりと気持ちを書いてあるのに対して、お姉ちゃんはどういう気持ちなん?」
「嬉しい。」
「これまでのこともあってわだかまりも有るかもしれんけど、
ここまでの手紙はなかなかないことやと思うよ、
あんまり気にし過ぎたらあかんよ。
会ってよーく話しして、自分の気持ちもちゃんと伝えて、
その上でわだかまりを解いたらええんやから。」
「うん、そうやな、わかった、手紙書くわ。
案文出来たら、声掛けるからまた来てね。」
「わかった、ほな待ってるわ。
今晩じゅうには案文を書かなあかんよ。明日には清書して速達で出す、という予定で行こ。」
「うん、そのくらいでやる。」