「小説 雨と水玉(仮題)(24)」/美智子さんの近代 ”新大阪から万博公園へ”
(24)新大阪から万博公園へ
啓一はその日、八時過ぎに寮を出て東京駅九時二十八分発十二時十八分新大阪着のひかり号(当時のぞみ号はまだ運転していなかった)に乗った。
コンビニで買ったパンとおにぎりを食べてうとうとしていると名古屋、京都を過ぎた。缶コーヒーで目を覚ましてすっきりすると新大阪の25番線に定時の十二時十八分に到着した。
階段を降りて地下鉄方面改札へ向かった。改札に近付き切符を出しながら見渡したが美智子がまだ来ていないようで安心した。
出たところで立ち止まり、待つことにした。
十二時三十分には二、三分前になり、駅正面の方に美智子の姿が見えた。気付くと会釈というよりお辞儀に近い格好で駆け足で近付いてきた。この格好はいつもの彼女の癖のようなもので微笑ましかった。
「こんにちは、田中さん」
「こんにちは」
「今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
美智子の服装は紺のブラウスに水玉のスカート、薄茶系のジャケットを羽織っていて大人っぽく見えた。
「あのお、田中さん、
服装、全体にとってもいいんですけど、水玉がとっても」
「ありがとうございます。そう言っていただけて安心しました。
ちょっと迷ったんですけど」
「嬉しいです。ほんと素敵で、、、、」
「ありがとうございます、(にこっとして)
行きましょうか?」
「ええ、あっちですよね、地下鉄、行きましょう。」
地下鉄から北大阪急行に入り間も無く千里中央に着いた。
その間も会話に途切れなくお互いが慎重に気を使って、今日の秋晴れの天候や今朝からの啓一の旅程など取り留めない話を楽しく出来た。
当時は万博公園に通じている大阪モノレールはもちろんなかった。
「バス乗り場はどっちでしょうねえ?田中さん、知ってます?」
「ええ、わかりますよ、ああ、あそこの階段を上がっていけばいいはずです。」
階段を上がり表に出るとバスが出入りしていた。美智子が先導して万博公園行のバス乗り場へとたどり着いた。
美智子が時刻表を確かめて時計を見ながら、
「十二時五十五分のバスがあります。」
「待たないで乗れますね」
「ええ」
「田中さん、もしかしてバスとか下調べして来てくれたんですか?」
「ええ、少しだけ、少しだけですよ」
「ありがとう。ホント気が利きますねえ」
「いえ、
佐藤さん、東京から来てくれはるから、、、
あのお、佐藤さん、お昼ご飯は?」
「ああ、新幹線で朝食と兼ねてパンとおにぎりを食べてきました。」
「あのお、公園でお腹すくかもしれへんと思って、サンドイッチ作ってきたんですけど、
少しすれば食べられますか?」
「ありがとう、なにからなにまで気が利いてますねえ、
大丈夫です。お腹空いてます。」
「ああ、よかった。」
と言った嬉しそうな笑顔が啓一には眩しかった。
すぐにバスが来て、前の人達に続いて美智子が先に乗り込んで後に啓一が続いた。
「佐藤さん、ここに座りましょう。」
「はい、そうですね」
バスの奥の方の二席が横に並ぶ狭い席で、啓一は気を付けて座ったが美智子の柔らかい腰が当たってドキッとした。
やがてバスが出発し、
良く晴れた日で外の景色を見て話しながらバスの揺れに美智子の腰や肩が振れるのに緊張していると、間もなく万博公園正面のバス停につき、太陽の塔がこちらを向いていた。