「三十五年越し (本編1) プロローグ」/遠い昔の二十代の頃、恋焦がれ続けた美しい女性、美智子(仮名、以下同じ)さんへの心からのオマージュ、三十五年越しのラブレター
『三十五年越し』
佐藤 遼道
(1)「プロローグ」
いつの時代においても素敵な女性の微笑みに勝手に好意あるを信じて恋心を膨らませるのが男心というものなのだろう。
昔の恋を語るなどは野暮でもあり恥ずかしいことだが、齢還暦になるオヤジでも、恋の唄を歌い、恋愛ドラマや映画に酔い、テレビの女子アナウンサーに惹かれる。枯れてきてはいるのだろうが中々枯れきらない。
そこには生への尽きせぬ情熱とコインの表裏をなすからくりがあるに違いない。だとしても、あとにも先にもあれほど恋い焦がれたことはなく、そのときめきがなお胸に残っているとしたらそれは仕合せなことではないか。
惚気なのかもしれないがそのことが妻への愛に続くものと気づいたならば、妻はバカにして毒突くに決まっているけれど、苦いが幸甚だった道行きを書き残しておくのも許されることだろうと思う。
あれは昭和五十九年大学卒業後大学院修士過程に入った二十二才から、修士を二十四歳で卒業し就職をして数年、平成元年二十八才までのことだった。
(2)に続く。