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「小説 雨と水玉(仮題)(29)」/美智子さんの近代 ”日曜と水曜の電話  と 雨と水玉”

(29)日曜と水曜の電話 と 雨と水玉
その日曜の夜九時ごろ啓一からの電話、
「はい、美智子です。はい、大丈夫です。」
「あの、今度の土曜日ですけど、天神橋筋でいいですか?」
「ええ、天神橋筋、賑やかでいいみたいです。妹が良く知ってて教えてもらいました。」
「あ、そうなんや、僕も大阪観光ガイドブックみたら、よさそうやなって」
「ええ、なんかアーケードの長い商店街で安くて美味しいものたくさんあるって」
「あ、やっぱり、正解かもしれませんね。楽しみですね。」
「ええ、楽しみです。
佐藤さん、今週も忙しいんですか?」
「ええ、いつものことなんで。美智子さんは?」
「わたしはいつもの通りの感じで」
「そうお、ちょっと寒くなってきたんで体調崩さないように気を付けてくださいね。」
「ありがとうございます、佐藤さんも無理しないように」
「ええ、ありがとう。
そしたら今週の土曜も同じ新幹線で行ったらいいですか?
梅田で落ち合うとすると十二時四十五分ころやと思うんですけど」
「ええ、大丈夫です。」
「梅田の紀伊国屋前でいいですか?二年半前に待合せたとこで?」
「えっ、あそこですね。わかりました。待ち遠しいですね。」
「うん、そう、待ち遠しい。
あの、待ち遠しいんで、水曜日にまた電話していいですか?」
「えっ、もちろんです。嬉しいです。待ってます。」
「そしたら、水曜日の夜にまた電話しますね。」
「はい、待ってます。」
「そしたら、今日はこれで、名残惜しいけどおやすみなさい。」
「はい、わたしも。おやすみなさい。」

水曜日の夜、
「もしもし、美智子です。」
「こんばんは、やっと水曜日なりました。」
「はい、ふ、ふ、ふ(笑)、やっとですね。」
「あの、毎週日曜と水曜に美智子さんに電話していいですか?」
「えっ?もちろんいいですけど、どちらかはわたしから電話してもいいですか?」
「えっ?、いいですけど、大丈夫ですか?あの、僕、今寮に住んでるんですけど、来週から部屋に電話線が入るんですよ。そしたら電話持つので、それからでいいですか?」
「あ、そうなんですか、佐藤さんがそれで良ければ是非それでお願いします。」
「なんか、いつも美智子さんの声聞くと元気出るなあ、ありがとう。」
「ええーそうですかあ。
佐藤さん、とにかく忙しいから睡眠はちゃんととってくださいよ。体調悪くしたらいけないんで。」
「ありがとう。美智子さんは最近、T先生には会ったりしてないんですか?」
「そうそう、昨日お店に来てました。
あの先生、変わってていつもなんやポケットからメモ用紙取り出して書棚をうろうろしはるんですよ。
私いつも後ろから行って、先生!こんにちはって大きな声で声掛けすると、おお―新人、元気でやってるかって言うんですよ。
もう新人ちゃうのに。」
「は、は、は(笑)、美智子さん、気に入られてるんですよ、しっかり仕事してるから。僕、お友達の作家のKさん好きやから、今度T先生を紹介してほしいなあ。」
「あ、そうなんですか。
ときどき帰りの電車で一緒になるときあるんでそういうときやったら紹介できるかもしれへん」
「そうなんですか。
でもそれいいなあ、今度平日に大阪でT先生待ち伏せしましょか、二人で」
「ふ、ふ、ふ(笑)、それいいかもしれへん、一度やりましょか、ふ、ふ、ふ(笑)」
「やりましょ、やりましょ。
また、楽しみができたなあ。嬉しい。」
「はい、是非。」
「そしたら、次は土曜ですね。
十二時四十五分に梅田の紀伊国屋前で。いいですか?」
「はい、大丈夫です、楽しみにしてます。」
「僕も楽しみにしてます。それではこれで、名残惜しいけど、また土曜日に。
おやすみなさい。」
「はい、土曜日に、おやすみなさい、失礼します。」

部屋に戻るとたか子が近寄って来て、
「お姉ちゃん、めっちゃ楽しそうやなあ、
『はい、待ってます、はい、はい、土曜日に、ふ、ふ、ふ』
やて、水曜も電話かかってくるんやね」
「うん、毎週水曜と日曜にね。」

土曜十二時半過ぎ、啓一はJR大阪駅から阪急梅田方面に向かった。
学生時代良く行き来したところ、紀伊国屋前に着いたのは十二時四十分。
すぐに美智子が階段を降りてきた。紺のジャケット、白のブラウスに花柄のロングスカート姿は一段と映えていた。
「こんにちは、今日も素敵な服装で」
「ありがとうございます。今日は水玉はこのキーホルダーです。」
「えっ!ありがとう、もうホントありがとう。めっちゃ嬉しいです。」
「あの、佐藤さんの分もあるんですけど、使ってくれませんか?」
「えっ!、ほんと?ありがとう、もちろんです。使います。」
「そしたら、キーホルダーを出してくれます?
はい、つけますね、こうやってー、
はい、できました。」
「ありがとう、雨と水玉は僕の宝物です。」
「ふ、ふ、ふ(笑)」
啓一は一瞬、雨と水玉の後に美智子も、と思ったがまだ少し早いかと思いとどまった。


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