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「一技術者が仕事の意義について考えてきた一側面 エピローグ6」/福澤諭吉 定年講演
日本人にとっての近代とは、ということでそれを明瞭な形で指し示してくれている人として、福澤諭吉と江藤淳をあげました。
これはなかなか良い人選だと自分でも自惚れて思っているのですが、福澤諭吉という人の書いた「文明諭ノ概略」にしても「学問ノススメ」にしても、繰り返しを厭わないで丁寧に非常に分かり易く書いてくれています。明治初期の文語体ですが、その点は非常に読みやすいです。
ですので、皆さんも福澤が思い、考えていたことを是非直接に味わっていただけると、幕末明治の人というものがどんな気持ちでどんなことを考えていたのか、なんとなく肌身でわかってきますので是非読んでいただきたいなと思います。
もう一つ、福澤諭吉で言うと、本編でも敢えて示しましたが、彼自身の口述筆記による自伝である「福翁自伝」を是非お勧めしたいと思います。
これなど、現代語訳が出てはいますが、別段現代語訳など必要ない平易な、時として江戸弁ではないですがべらんめえ調な臭いがするくらい読みやすいものです。
そして何より、福澤諭吉がどんな人間なのかが非常によくわかります。知的という意味でこれほど知的な人もいないのではないかという人ですが、非常に人間臭い。青春の頃、特に大阪の適塾での書生時代の記述なんか、現代の学生とさほど違うとは思われないほどの青春を送っています。
(昨年12月、今に一般公開されている大阪の適塾に行ってきましたが、勉強部屋や炊事部屋、狭い階段など往時をしのばせるものがありました。柱にあった刀傷に感慨無きを得ず、といった気持ちが湧きました。)
貧乏下級武士に生まれ、門閥を敵視し、学問のみで立ち上がった男一匹の生きざまは本当に見事で、いろんな経験を経て老年に語る自叙伝のなんと、生き生きとしていることか。
こういう人を友に持ちたかった、というのは偽らざる読後感です。
そういう意味で、「福翁自伝」は、読んでいる間、福澤を友とすることができるとも言える、素晴らしい読みものであると、心からお勧めしたい本です。
最後に、福澤諭吉のおすすめ評伝を紹介します。
北康利さんによる、評伝上下2冊。
練達の評伝作家と申してよいと思われる、北康利さん。
この人の評伝にはいつも感心させられます。