【書式あり】一般社団法人での議案提案の方法
こんにちは。執筆人の元・三遊亭天歌こと吉原馬雀です。
私は現在、一般社団法人落語協会に所属しておりますが、例年6月に会員一同が集う総会が行われます。
この総会では役員人事や各種計算書類など、団体を運営するうえで重要事項が会員一同により決定や承認がされます。
落語協会の例年の慣例だと、会員は役員からの報告を聞く一方であるというイメージですが、実はこの総会では会員からさまざまな提案をし、会員一同に向けて提案することができます。なおかつ賛同が多く決議することができれば、協会の決定事項とすることができます。
私は本年、議案を通してハラスメント相談窓口の改善をすべく対策委員会の設立を求めましたが、ほか議案の典型として組織のルールである定款の変更や、候補者を擁立し理事や監事へ選任する決議を求めることなども可能です。
会員が団体運営について決議を求めることができる重要な議案提案権について、今回は私が実際に提案させていただいた事例をもとに、一般社団法人における議案の有効な書式について詳しい解説をさせていただきます。
【ご案内】
この事例は一般社団法人法での社員提案権に基づくものです(正式には「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」。以下「一般法人法」と記す)。どの団体にもそのまま応用できるものではありませんので、他団体の場合はご参考程度でお願いします。
また法律や定款などの条文やデータは執筆当時のもの(2023年6月現在)になりますので、特に条文については最新のものと照らし合わせてご利用ください。
また非常に細かくご案内してますが、確実な書式のためには、法律の専門家に確認されることをおすすめします。
とは言え、理事会が設置されている一般社団法人の議案提出手続きについて詳細を述べておりますので、他業種でも参考になるものと思います。
有効な議案の書式
先に議案の書式をご紹介します。以下の書式(雛形・テンプレート)をダウンロードの上ご活用ください。
※ 書式について詳しくは以下の「議案の作り方」をご覧の上で、各種提案に活用ください。
※ 書式内の赤い文字は提案内容や個別の状況により書き換えをしてください。
※ 書式内の青い文字はそのままの記載で大丈夫か、最新の条文をご確認ください。
※ ファイルの内容はどちらとも同じです。docxの書式が正しく表示されない場合は、pdfを任意のファイル形式に変換してご活用ください。
※ 当書式は、執筆者の当時の代理人弁護士による監修済みです。
どういう条件を満たせば、会員は議案を提案できるのか?
根拠条文
以下の条文により会員は総会にて議案を提案できます。
条文の中で「社員」とされていますが、これは落語協会での事務員さんを指すのではなく、落語家や色物やお囃子など会員を意味します。
なお落語協会は「理事会設置一般社団法人」となりますので、第2項の規定に基づいて議案を提出しなければなりません。
議案を提案するためには、さまざまな条件を満たす必要があります。以下で詳しく確認します。
条件① 一定数以上の正会員による署名捺印が必要
議案は総議決権の三十分の一以上の議決権を有する会員によることが必要です。(一般法人法43条2項)
これは分かりやすく言うと、落語協会の真打・講談師・色物・二ツ目・お囃子のうち、12名以上(ただし2023年6月現在。毎年この数は変動することに注意)の署名捺印がなされた議案でなければならないということです。以下にて詳しく解説します。
まず議案は「総会にて議決権を有する会員」による必要があります。
定款によると落語協会の総会で議決権を有するのは、「正会員」に限ります。
ちなみに「定款」とは、会社や組織の設立や運営などについて定めたルールです。いわば組織にとっての法律に当たります。
議案の提案を考えておられる方は、最新の定款とさらに細かいルールである細則(落語協会の場合は、「一般社団法人落語協会細則」)についても入手されたほうがよろしいと思います。会員は事務局に直接問い合わせれば入手できます。
つまり議案を提出可能な正会員とは「落語協会の真打・講談師・色物・二ツ目・お囃子」のことです。
なお正会員については、落語協会のホームページをご参照にされると良いと思います。
この正会員の総数は、執筆当時現在349名でした。
議案提出に必要なのはこの30分の1以上。つまり11.6名以上となり、繰り上げると12名以上となります。
なお繰り返しになりますがこの人数は執筆当時のものです。議案提出のおりは必ず最新の人数を確認ください。またホームページは必ずしも最新のものとも限りませんので、念を押す場合は事務局にまで確認されると確実です。
条件② 社員総会の日の6週間までに提出
議案は、社員総会の日の六週間までに協会に提出される必要があります。(一般法人法43条2項)
例年、総会は6月の末日の開催(2023年は6月29日開催)ですが、特段の事情で前倒しとなる可能性もないとは言えないので、議案は余裕をもって提出しましょう。
事務局に直接手渡ししても良いですが、それだと提出日の明確な証明に欠けますので、レターパックで送るのがおすすめです。
レターパックは、投函者が日本郵便のホームページでお問い合わせ番号(シール記載)で検索すると、正確な到着日時を確認することができます。
議案を提出する折は、シールとともに検索結果のスクリーンショットをURLも写るようにして保存しておきましょう。
また署名捺印をいただいた議案そのものも、きちんとコピーを取って証拠を残しておきましょう。
条件③ 提案する内容が総会の権限内であること
まず結論から言います。提案する内容(議題)が落語協会の場合は、以下のいずれかでなければなりません。
・正会員の除名
・理事又は監事の選任又は解任
・理事及び監事の報酬等の額
・定款の変更
・解散及び残余財産の処分
・その他社員総会で決議するものとして
法令又はこの定款で定められた事項
一見するとすごく限定された内容しか提案できないように思えますが、議題を「定款の変更」と設定すれば、比較的柔軟な内容を総会で提案が可能です。(詳しくは後述の「議案の作り方」を参照ください)
少々ややこしい箇所ですので以下に詳しく解説します。
会員はまず理事に対し、社員総会の目的(これを「議題」と言う)を請求のうえで、具体的な内容(こちらが「議案」)を提案できます。少々手続きがややこしいのですが「議案」を提案するには、まず「議題」を請求せねばならないのです。
そして議題については「一定の事項」に限られるのです。
そして「一定の事項」とは、総会の権限事項を指すとされています。
総会の権限事項は、次の定めがあります。
総会権限事項について、まず「この法律に規定する事項」は以下の内容です。
つまり落語協会のような理事会設置一般社団法人の場合、会員が法令内の事項として提案できる議題は、「社員総会に提出された資料等の調査(一般法人法55条)」または「定時社員総会における会計監査人の意見の陳述(一般法人法109条2項)」に限られるということです。法令内の定めのみでは提案できるのは非常に限定されています。
つぎに、「落語協会の定款」では総会権限事項はどのように定められているか見てみます。
定款にて上記の定めがあるため、議題として理事に請求できる内容は、先の結論の通りとなるわけです。
理事会の設置されている一般社団法人で議案を提案する場合は、社員総会の権限事項を定款でチェックすることは必須です。
条件④ 議案の内容が法令や定款に違反しないこと
以下の条文によります。
たとえば議題を「理事の選任決議の件」とすれば、議案にて具体的な個人を理事に推薦することは一見可能なように思えます。
ところが、落語協会の定款の20条にて理事の人数の制限があるために、その人数を超えることはできません。
そのため定款に違反する議案の場合には、同時に定款変更を併せて提案する必要があります。(※1)
条件⑤ 権利の濫用に当たらないこと
民法の一般原則ですが、社会通念上許容されないような形で権利を濫用することは許されません。
一般社団法人法の提案権で何が権利の濫用になるのか目ぼしい事例はありませんが、会社法の株主提案権について有名な裁判例があるのでご紹介します。
実際にどのような議案だったのかというわけですが、提案株主がTwitterで「株主提案の個数のギネスブック記録っていくつかどなたか知っていますか?問い合わせ方法を誰か,知ってたら教えてください」と投稿のうえ計114の議案が会社に提出されたものです。そもそもは、提案株主の父を確執を原因とし相談役(父の兄)を困惑させるのが提案の目的であったと高等裁判所では認められ、提案株主からの訴えは退けられました。(※2)
大事なのは議案には、団体の利益を図るスタンスが求められるということです。その点、書式内の「提案の理由」で説明は可能ですので、議案にはその理由も含めて提出するのが望ましいです。
条件⑥ 前年以前と同一議案で、過去の総会で不支持が多すぎた場合は、3年を経過しないと再提案できない
以下の条文によります。
議案については以上の6条件を満たせば、総会に提案し、会員一同に決議を求めることができます。
以上の6条件を踏まえたうえで、次は有効な書式の具体的な記入方法について詳しく解説します。
【メイン】議案の作り方
手順① 以下の書式をダウンロードの上、議案としてご活用ください。
※ 書式について詳しくは以下の「議案の作り方」をご覧の上で、各種提案に活用ください。
※ ファイルの内容はどちらとも同じです。docxの書式が正しく表示されない場合は、pdfを任意のファイル形式に変換してご活用ください。
※ 当書式は、執筆者の当時の代理人弁護士による監修済みです。
手順② 議案作成のため、最新の定款と細則がある場合は細則も事務局より入手する。
手順③ ダウンロード書式内の「青い文字」は記載そのままで大丈夫か、最新の条文をご確認ください。ちなみに執筆時の条文は以下の内容ですので、最新の条文と照らし合わせてください。
【補足説明】 議題と議案の請求のほか、議案を会員一同に通知を請求する事も含めて社員提案権とされています。議案を総会で提案するためには、会員一同への通知も必須とされています。(※3)
手順④ ダウンロード書式内の「赤い文字」は、下記の説明をご参照のうえ、提案内容により書き換えをしてください。
【補足説明】 議案が提出先により上記記載の条件①~⑥のいずれかを満たしていないため取り上げない旨の判断がされた場合に備え、議案への署名捺印と同時に委任状にも署名捺印をもらっておくのも良いです。却下された議案についてあくまで総会での決議にこだわるならば、迅速な司法審査(仮処分)を行う必要性があるためです。却下されてから協力者に改めて署名捺印をいただくと時間的なロスがあり、仮処分を求めても総会までに間に合わない可能性があります。(この委任状などについては後日更新予定です)
手順⑤ 協力してもらえそうな正会員にアポイントを取り、議案と委任状に署名と捺印をもらう。
【補足説明】詳細は前述の「条件①」を確認し、その人数分の正会員からの署名と捺印が必要です。
手順⑥ 必要な署名数が揃ったら、コピーをとって、総会開催の6週間前に間に合うように提出する。
【補足説明①】送付するのは議案のみです。委任状は仮処分をするならば必要になるにすぎません。また議案のコピーは、仮に議案が不適法却下になった場合に、仮処分など司法手続きに及ぶ際に証拠として必要です。
【補足説明②】落語協会の総会は例年6月末日ごろの開催が慣例となっていますが、定款上は毎年4~6月の間で開催するとされているため、開催日は気をつけておく必要があります。
ちなみに2023年は、6月7日に総会参加の出席確認がきて、6月16日に総会の目的(議題)を記載した資料一式が届きました。総会は6月29日の開催でした。以上を考慮すると、議案は総会の6週間前の提出でよいとされていますが、ぎりぎりでなくゆとりをもって提出するのがよいです。
【補足説明③】議案は事務局に直接手渡ししても良いですが、それだと提出日の明確な証明に欠けますので、レターパックで送るのがおすすめです。
レターパックは、投函者が日本郵便のホームページでお問い合わせ番号(シール記載)を入力すると、正確な到着日時を確認することができます。
議案を提出した折は、シールとともに検索結果のスクリーンショットをURLも写るようにして保存しておきましょう。
また議案そのものもきちんとコピーを取って証拠を残しておきましょう。
まとめ
社員提案権は一般社団法人の会員に認められた貴重な権利です。
また社員提案権を活用することで、団体の運営が会員軽視とならない効果も期待できます。
議案を作成したい方は是非とも書式をダウンロードし、条件①~⑥を満たす議案かチェックのうえでご提案に活用ください。
またこのページは今後も内容をアップデートして、議案提案にお役に立つ情報をお届けしてまいります。
【注釈】
※1
会社法での説明になるが以下の文献による。
・敵対的株主提案とプロキシーファイト〔第3版〕/商事法務 35項
・株主提案権と委任状勧誘〔第3版〕/商事法務 75項
・株主総会の準備事務と議事運営〔第5版〕/中央経済社 517~518項
※2
徳永・松崎・斉藤法律事務所ホームページでの解説より引用。
※3
会社法での説明になるが以下の文献による。
・敵対的株主提案とプロキシーファイト〔第3版〕/商事法務 20項
・株主提案権と委任状勧誘〔第3版〕/商事法務 44項
・株主総会の準備事務と議事運営〔第5版〕/中央経済社 492項