分子標的薬各論~EGFR阻害薬~
EGFR阻害薬とは
上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Recepeter、EGFR)を阻害する薬剤である。EGFRにはチロシンキナーゼが含まれるが、抗体薬は受容体に結合することで、小分子薬は膜を通過し、細胞内からチロシンキナーゼに結合することで作用する。つまり、EGFRとは「受容体型のチロシンキナーゼ」であり、その作用を外から(=抗体薬)、もしくは内から(=小分子薬)阻害することで細胞増殖を抑制する薬剤がEGFR阻害薬である。なお、上皮増殖因子を阻害してしまうため、副作用としては皮膚障害が特徴的である。
種類(抗体薬)
・セツキシマブ
・パニツムマブ
※いずれもRAS遺伝子野生型(=遺伝子変異がない)に用いられる。
セツキシマブ(アービタックス®)
<適応症>
・EGFR陽性の治癒切除不能、もしくは再発の結腸・直腸がん
<副作用>
インフュージョンリアクション、皮膚症状、下痢、低マグネシウム血症、間質性肺炎
パニツムマブ(ベクティビックス®)
<適応>
KRAS遺伝子野生型の治癒切除不能、もしくは再発の結腸・直腸がん
<副作用>
皮膚症状、低マグネシウム血症、インフュージョンリアクション、間質性肺炎、心臓障害
※ヒト・マウスキメラ型抗体であるセツキシマブと比較し、インフュージョンリアクションの発現頻度は低い。
種類(小分子薬)
・ゲフィチニブ
・アファチニブ
・エルロチニブ
※~ニブ:小分子薬、チロシンキナーゼ阻害薬
ゲフィチニブ、アファチニブ
<適応>
EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん
エルロチニブ(タルセバ®)
<適応>
手術不能または再発非小細胞肺がんの他に、ゲムシタビンと併用で膵癌に対する承認がある。
<副作用>
皮膚症状(爪囲炎、皮膚乾燥、口内炎)、下痢、間質性肺炎、など。
皮膚障害
特徴的な副作用である皮膚障害に対し、予防療法の有用性が報告されている。EGFR阻害薬の投与開始日から保湿剤塗布と抗菌薬(ミノサイクリン)内服をおこない、皮膚症状出現時にはステロイド外用が推奨されている。
※皮膚症状にはざ瘡様皮膚炎、爪囲炎、皮膚乾燥、掻痒などがある。ざ瘡様皮膚炎にはステロイド外用、ミノサイクリン内服。重症例では短期間ステロイド内服。爪囲炎には洗浄、ガーゼ保護、爪切り、テーピング。重症例ではステロイド外用、凍結療法、爪形成術など。皮膚乾燥には保湿剤。皮膚亀裂には局所ステロイド塗布。掻痒に対しては、保湿剤、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド外用など。
用語解説
チロシンキナーゼ
基質をリン酸化する酵素を一般に「キナーゼ」と呼び、その中でも基質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素を「チロシンキナーゼ」と呼ぶ。
チロシンキナーゼは一般に細胞増殖を誘導する役割を果たしており、正常細胞内においてはその活性は厳密にコントロールされている。EGFRにあるチロシンキナーゼは、受容体にリガンドが結合することでチロシンキナーゼが2量体を形成し、活性化することで細胞増殖を促進させるシグナルを発生させる。
RAS遺伝子
EGFRにリガンドが結合することでチロシンキナーゼが活性化し、細胞増殖のシグナルが発せられるが、そのシグナル伝達の過程に存在するのがRASタンパクである。このRASタンパクを作り出す遺伝子がRAS遺伝子であり、RAS遺伝子に変異があると、セツキシマブを投与してもシグナル伝達は阻害されないため、変異陽性の場合には投与対象とはならない。なお、RAS遺伝子には①K-RAS遺伝子、②N-RAS遺伝子、③H-RAS遺伝子があり、大腸がんの患者のうちRAS遺伝子変異が見つかる人は約50%と報告されている。
インフュージョンリアクション
抗体製剤を投与することで起こる副作用の一つ。投与から24時間以内に生じ、発熱・悪寒・悪心嘔吐・頭痛・咳嗽などの症状がある。発生機序はまだ未解明だが、サイトカイン放出によるものと考えられている。初回治療で最も見られやすく、腫瘍量の多い患者や安静時呼吸困難がある場合で重篤になることがある。