徒然物語63 明日が読めない
きっかけは2週間前。
バイト帰りに薄汚い露天商に呼び止められた僕は、怪しげな古新聞を売りつけられたのだ。
露店商の老人曰く。
「この古新聞には、“明日の出来事”が載るんじゃよ。」
本来なら全速力で逃げ去るべきだが、その日の僕は気分がよかった。
バイト代が入ったからだ。
聞くと、どう見てもボロ紙にしか見えないこの古新聞は、毎朝世界中の主要なニュースが自動的に載るらしい。
それも翌日の出来事が。
そんなことあるはずないが、哀れな老人へのちょっとした人助けと考え、
「ははっ本当なら面白いですね。いくらですか?」
などと、ボロボロの紙きれを300円で買い取ったのだった。
翌朝、何気なく古新聞を開くと、「4月2日」という日付が載っていた。
今日は4月1日だ。
まさかと思い紙面をめくると、2日に行われる予定の野球の勝敗とか、選挙の結果とか、株価や競馬の順位、事件など…
ありとあらゆる情報が翌日のものだった。
一面には『南極に隕石落下』などと、でかでかしい文字が躍っている。
なんだ、これは。
最初は老人のイタズラを疑った。
所謂フェイクニュースだ。
僕に売りつけるときに、予めでたらめなニュースを印刷しておいたのだ。
買ったその場で紙面に目を通さなかった自分も迂闊だったが、手の込んだイタズラをするもんだなと老人に変な関心を覚えつつ、そんな出来事は記憶の底へと消えていった。
さて、4月2日。
朝テレビをつけると、『南極に小隕石落下!!』の文字が飛び込んできた。
その瞬間、
あれ…?まさか…?
心臓が飛び出そうなほどの興奮を覚えながら、恐る恐る古新聞に手を伸ばす。
そこには4月3日の、世界中の人々がまだ知らない、ありとあらゆるニュースが書かれていた。
本物…か?
未だに不安は拭えないものの、とりあえず紙面を穴の開くほど熟読した。
その翌日、はやる気持ちを胸に地方競馬場へ向かった。
結果は全勝。記載通りの順位に落ち着き、記載通りの配当を得たのだった。
間違いない。本物だ。
確信した僕は、その後も競馬、株、FXなどにお金を賭け続け、わずか2週間で巨万の富を築いたのだった。
これさえあれば、僕の人生はバラ色だ。
高まる興奮を胸に、古新聞を仰々しく金庫にしまう。
その日。
日課となった古新聞を金庫から取り出すと、一面真っ黒だった。
あれ?
と思い紙面をめくるが、どのページも真っ黒で何も載っていなかった。
なんだ。もうお終いか?
明日が読めないことに若干不安を覚えたが、その反面、もはや自分には不必要という考えもよぎった。
僕はもう一生遊んで暮らせるだけの富を得たんだ。
明日が読めなくても、困ることなんてない。悠々自適に暮らしていくさ。
まさか、明日世界が滅びるわけでもないんだから。