徒然物語12 ソブリン

「こちらの投資信託は、世界中のソブリン債に分散投資する商品となっています。」

窓口の女性が、笑顔でそう説明した。

銀行に定期預金を下ろしに来たら、なぜか用途を聞かれ、あげく、投資で運用しませんか?と、勧誘が始まったのだ。

んん?まず、投資信託ってなんだ?ソブリン債って??投資とか意味不明で、まるで興味ないんだが…

とやや引き気味だったが、若手の女性行員があまりに熱心に説明するので、とりあえず相槌を打っていた。

聞くともなしに聞いていると、どうやらソブリン債とは国債の英語訳らしい。

国債くらいなら、なんとなく知っている。国の借金のことだろう…

そんなことより、この子がやたら連呼する、“ソブリン”という言葉が、妙に頭から離れなくなっていた。

ソブリン、ソブリン、なんか、妙にかわいらしい響きだな…
殺伐な光景も、ソブリンを足せば、明るい雰囲気になるかもしれないなぁ…
などと、彼女の話はそっちのけで、妄想が加速し始めた。

例えば…そうだなぁ…

あの男性行員、上司の前で立たされて、長いこと話を聞かされている。
おそらくノルマか何かで怒られているんだろう。

でも、彼もきっと、怒られ慣れてるな。後ろで手を組んで、輪ゴムをくるくるいじっている。上司には見えないが、ここからはよく見える。

あの態度は、話をまじめに聞いていないに違いない。
早く終われ~鬱陶しい上司だな。くらいにしか思ってないな…

まさに、怒られている、素振りん♪

「あの、私の説明、いかがでしたか?」

女性行員の声で、我に返る。
危うく自分の妄想で吹き出しそうになるのを、すんでのところで堪えた。

しまった。何を馬鹿な妄想をしていたんだ。

取り繕うように、彼女にこう答えた。

「ああ、うん。どうもありがとう。よく理解できました。少し検討したいから、パンフレットいただけますか?」

若干焦り気味に言うと、

「はい、ありがとうございます!ぜひ、ご検討ください!」

と嬉しそうに笑顔を見せ、ぺこりとお辞儀をした。

彼女の満面の笑みに、心の痛みを感じながら私は、
理解した素振りん♪を振りまいて、銀行を後にした。

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