徒然物語75 松の葉少年の半生
松の葉っぱって見たことある?
とがったV字の葉っぱ。
先端を互いに通して引っ張る遊びに、みんなが熱中したよね。
僕もそのクチで、友達と夢中になって遊んでたっけ。
負けるのがどうにも悔しかった僕は、最強の松の葉を求めて、山のあちこちを一人で探しまわったよ。
自分の両手で、松の葉を戦わせる日々が続いた。
数え切れないほどの戦いを乗り越えて、ようやく最強の一本に巡り合えたんだ。
「鉄松」
そう名付けた相棒と共に、僕はふもとへと降りたのさ。
「さあ、松の葉勝負だ!!」
道行く人に声を掛けたけど、大抵無視されるか、足早に立ち去られたよ。
あの頃子供だった僕の友達はみんな、“しゃかいじん”とかいう大人になったらしい。
どうやら、もう松の葉勝負をする相手はいないみたい。
鉄松を握りしめ、僕は山へと戻ることにした。