徒然物語66 灯火
仕事の帰り道。
いつもとは反対の方向へと車を走らせる。
今日は久しぶりにあのラーメンが食べたい気分だった。
店主とおかみさん、1,2人のパートで切り盛りしている。
15人も来店があれば満席になる、所謂小規模飲食店。
けれども、店主のラーメンへのこだわりは相当なものだ。
麵は自家製面で、製麺室が厨房の一角に見える。
スープは鶏ガラの風味がよく効いた醤油ベース。
具はメンマに、チャーシュー、ネギとシンプル。
素朴で優しい味が、醤油ラーメンの到達点のように感じられ、気付いたらリピーターになっていた。
そんな地元の人気店だが、数年前から「弟子募集」と書かれた張り紙が目を引くようになった。
思えば店主も、60代後半といった出で立ちだ。
一日中の立ち仕事は体にも相当堪えるだろう。
“弟子”が見つからなかたら、あと数年で閉めてしまうんだろうか…
そんな寂しさを覚えながら、会計を済ませたのがもう、半年前のことだった。
そして今。
久しぶりにあの味を求めて車を向かわせたという訳だった。
まだ、やっているんだろうか。
わずかな不安を胸に、ラーメン屋さんに到着する。
店は半年前と変わらず、明かりを灯していた。
店主の顔を見て安堵する。
よかった。まだやっている。
ふと壁に目をやると、あの「弟子募集」の張り紙がなくなっていることに気が付いた。
さらに、厨房では若いバンダナ姿のお兄さんが、せっせとラーメンを用意しながら、パートらしき若い子に指示を出している。
チャーシューを切る手つきは慣れたもので、さながら店主のそれを思わせた。
察するに、「弟子」は見つかったらしい。
店主は奥で腕を組んで、弟子の調理を見守っている。
頑張れ、弟子。
私には、通い続けるくらいしか応援できないが…
大好きなお店がこれからも続いてくことにうれしさを覚えながら、メニュー表を手に取る。
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