徒然物語60 親睦
社内のコミュニケーション円滑化を目的に、すごろく大会を開催することにした。
無礼講で、部門や上下関係にかかわらず、4人チームで親睦を深めようという企画だ。
社長である私のチームにも、総務、営業、調達の各部門から、若手の社員が集まった。
若手社員の声に耳を傾けると、会社のトップなのに現場レベルの話で知らないことが多くあり、大変驚かされている。
今も、調達課の早野田君が、楽しそうにサイコロを振っている。
「やった!6の目が出たんで、6つ進みま~す!
止まったマスは…なになに…」
『このマスに止まったあなたは、過去の失敗を反省して、そこから何を得たのか。
自分の人生を振り返ってもらいます。それをみんなで共有しましょう。
共感できれば6マス進む。できなければ6マス戻ります!』
すごろくは私のチョイスで、社会人の成長をテーマにしている。
「失敗談ね~…やはり、あれですかね~」
早野田君が記憶を辿るように視線を上に向ける。
それにしても、社員の失敗談や成長譚を聴くのは、私にとっても刺激になる。
今後の期待を込めた熱い目で、じっと彼を見据える。
「こないだ、緩衝材のプチプチくんを10ロール発注したんですね。
10ロール頼んでおけば、1年分の包装は賄えますからね。
ところが、間違えて1,000ロール発注しちゃったんですよ。
これはまずいと思って、仕入れ先さんには毎月1ロールずつ、送っていただくようにお願いしました。
これで1,000か月はプチプチくんが切れることはありません!
こういった機転を利かせて、失敗を何とか乗り越えることができました!
反省点は、やはり、発注のダブルチェックは重要だなと実感ました。
ちなみに支払いだけは分割という訳にはいかず、5,000万円の請求書が明日回ってくるんですよね~
以上です。」
早野田君の突然の告白に、私はしばらく呆然としたのち、やっとのことでこう言った。
「…え?聞いてないよ?」
「はい!今言いました!共有しました!6マス進んでいいでしょうか?」
(お前…人生振出からやり直してこい…
ってか、支払できるのか??)
思わず口に出そうになる言葉をぐっとこらえ、二の句を必死に探す…