IBN寮物語—半地下の生活—
IBN寮(小学校の廃屋)から出てきたのは小柄な男性であった。法学部の3年生という彼は受け答えもしっかりしており、玄関先の受付でいくつかの事務手続きをてきぱきとこなしてくれた。廃屋に住んでいるとは言え、住人は礼節を守っているようであり、これなら自分もIBN寮でうまくやっていけそうだと少し希望の光が見えてきた。
手続きが終わって、あとは自分の部屋に行くだけになり、部屋番号を聞くと、「無い」と言う。一瞬言い間違えたと思ったので、いやいや、今手続きが終わったので、部屋番号を教えてほしいと再度伝えると、「1年生は最初の一か月間、1階談話室で集団生活をしてもらいます」と言われる。大学受験時に入手した入寮パンフレットを見るが、そんな情報は全く書いていない。しかし、ここで押し問答をしても始まらないので、しぶしぶ1階談話室に向かうことにする。この時点で少し暗雲が立ち込めてきた。
玄関から入ったので、この先に「1階」談話室があると思っていると、ここは2階で、1階は一つ下になっていると言われる。階段を下りながら気づいたが、IBN寮は土手の斜面に建てられており、先ほどの玄関は土手を上がった二階になるのだが、一階はその土手の中に埋まっている。そのため、一階に行くと湿気臭くなる。また、1階廊下を歩きながら気づいたが、やけに寮内が暗い。廊下の左右に部屋を設置しているため、窓が存在せず、日光が入ってこない。文字通り、日の当たらない生活になりそうである。
長い長いトンネルのような廊下を抜けるとそこに1階談話室があった。半地下の生活が始まるのである。