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IBN寮物語—入寮審査会2—

  4月4日の午後9時に入寮審査会が始まった。新入寮生12名は全員1階談話室に居て、一人ずつ4階談話室に上がっていく。まずは、名前の早い順に初めの新入寮生が上がっていき、入寮審査会が行われる。早速猪俣がトップバッターとして行き、10分ほどすると戻ってきた。面接内容を聞くが、特に答えず、どことなく表情が曇っている。どうも新入寮生歓迎会は勝手が違うようだ。
 とりあえず、一人10分と言うことは、12人で120分なので、最終の私の開始は12時過ぎになると思ったので、私は1階談話室から一人抜けて、風呂に入って歯磨きなどを予めしておいた。ところが、12時を過ぎても半分程度しか終わっていなかったので、その後、眠ってしまった。私の直前の新入寮生が入寮審査会後に寝ている私を揺らして起こしてくれた。ちらっと時計をみると、午前3時だった。午前3時に入寮審査会が行われるというのは、これはもうパワーハラスメントの一種では無いかという気もしたが、既にアルコールハラスメントをたっぷり受けているので、そのあたりは不問にして、とりあえず、4階談話室に向かう。
 4階談話室に入ると、部屋の奥に9名ほどの先輩寮生がおり、その中央に胡坐をかいて座っているスポーツマンがいる。そう、魔王の東先輩である。東先輩は私を正面に正座で座らせた後、IBN寮に入った志望や動機を聞いてきた。一般的な就職面接とほぼ似ている。ただ、東先輩はいつも初めの入りは丁寧なのだが、最後に抽象的な発言をして、それで新入寮生全員が地獄に落とされる、というのを何度も経験してきた。そのため、東先輩の最後の発言にはいつも以上に注意を払ってしまう。
 東先輩が、一通り質問し終えた後、「『郷に入れば郷に従え』、と言うだろう?YもIBN寮のルールとかをしっかり学んでいくように」と言った。ここで普段の私なら、そのままうなずくのだが『郷に入れば郷に従え』という発言が気になって、「それはどういう郷に入るかに依ります。」と口答えをしてしまった。そうすると、先輩たちがまた質問を繰り返してきた。
 今振り返れば、東先輩は最後の一文をことわざで締めくくりたがる癖がある。そうすると、表現が抽象的になるのだが、そういう抽象的な表現(「飲み物を飲み干す」とか「入寮審査会」)でたびたび煮え湯を飲まされてきた新入寮生はここぞとばかりに、その表現を聞き流さずに、部分的に承認しないという態度をとってしまう。そうすると、東先輩は話が締められないし、他の8名の先輩たちも口応えする新入寮生という印象を与えてしまい、入寮審査会が長引いてしまうのである。これが入寮審査会が長引いてしまう原因のようだ。もちろん、猪俣のようにさっと切り上げてくる場合も、最後のことわざの意味を勘ぐってしまい、表情が曇ってしまうようなこともある。
 ただ、そのときはそういうことは私には分からないので、東先輩がことわざを言い、私がその発言は一般的に当てはまらない、と主張し、東先輩が別のことわざを言う、という謎のラリーが発生してしまった。最終的には、「李下(りか)に冠を正さず」ということわざを東先輩が言い、「YもIBN寮生に疑われる行為はしないように」と説明され、私が同意することで話が終わった。
 4階談話室を出ると朝4時半だった。長い長い入寮審査会が終わった。


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