
ああ憧れの
12月のある日、何にもすることがない日があったので表参道に行ってみた。
表参道といえば日本屈指のオシャレスポットで、行く前からなんだかわくわくしてくる。
とは言え、私は神奈川県民。
そんなすぐに表参道には着かない。
電車にズンドコズンドコ揺られ1時間。鶴見川と多摩川を越えて明治神宮前に着いた。
改札を出る前からやたらと小顔でスタイルのいい、私の地元では出会えなさそうな女性がいた。
これぞ表参道!これぞ青山!一体どんなお仕事を?私の胸が一気に高鳴る。
改札を抜けて、やたらと長いエスカレーターを上り切り地上に出るとそこはもう人の渦。
しまった、土曜日だった。
ラフォーレ原宿前の交差点は人でごった返している。
あまりの人の多さに辟易しながら、青山方面へと歩いていく。
行ってみたい喫茶店があったからそこを目指して歩く。
なんだか素敵そうだし値段も青山の割にそこまで高くない。
せっかく来たんだから行ってみたい。
喫茶店まで向かう途中に超高級ブランド、カルティエのクリスマスツリーがあった。
ハイブランドのクリスマスツリーなんて俗っぽくて品がないわ…と思う人もいるかもしれないけど私はスマホで撮影した。
こういうところが自分でも嫌になるけれど全然直らない。
路地に入ると素敵なブティックがたくさん。
ハイブランドの紙袋を抱えた人が何人かいて、あるところにはお金はあるんだなと思う。
東京都民ではないはずなのに、青山の路地を歩いているだけで東京の中心部出身なのではと勘違いしそうになる。
とんでもない魔力を持ったところだ。
そうこうしてるうちに目当ての喫茶店に着いた。想像していたよりもずっと素敵な外観。
早く店内に入ってみたい。
入り口まで行くとCLOSEDの看板がかかっていた。
嘘だ、ちゃんと確認したのにあんまりだ。
ラストオーダーまで1時間近くはあったはずなのに。
考えても仕方ないので来た道を引き返す。
他に喫茶店を探したがどこも長蛇の列。
一つ良さそうなところがあったが、値段を見てびっくり。
コーヒーが一杯1000円からだった。
からということはもっと高いこともあるのだろうか?
特別安くないファミレスでも定食が食べれる価格。
さすが青山、値段設定が強気すぎる。
やはりここは価格が安定しているチェーン店に入るしかないのだろうか。
真っ先に目に入ったのはルノアールだった。
広さとゆとりのルノアール。
しかし一人で入るのにそんな空間は必要ない。そしてルノアールは安くない。
けれど疲れた、ここで入ってもバチは当たらないんじゃないか。
疲れて金銭感覚がディズニーランド状態だ。
「ルノアールは千葉にもあるじゃない!?」
はっと我に帰った。
前にいた親子連れの50代くらいの母親が話している。
きっとこの人達も表参道っぽいところで過ごしたい難民なんだ。
とりあえずルノアールに入ってしまいたいお父さん、表参道に来たからには譲れませんよなお母さん、どうでも良さそうな娘。
私はこのお母さんの気持ちがよくわかる。
ルノアールはどの地元にもある。
やはりここで妥協してはダメだ。
これはきっと天の声だ。
表参道でお金を使うなら表参道らしいお金の使い方をしなければならない、それが出来ないのなら諦めるしかない。
今日はどこにも寄らずに帰ろう。
気持ちを切り替えて、明治神宮前駅を目指す。
帰り道、行く時は輝いて見えたカルティエのクリスマスツリーはぼんやりと見えた。
クリスマスツリーを撮影してたから時間がなくなってしまったのだろうか、そもそもあんなところに素敵なクリスマスツリーを設置したカルティエが全部悪いんじゃないか、八つ当たりしたくなる。
ダメだ切り替えられない。
やっぱり他にどこか見て帰ろうか、そう思って交差点で待っていたら隣にいた女性が凛とした雰囲気の綺麗な人でチラッと見てしまった。
ショートカットで、首元にはストールを巻いている。
この近くに住んでいる人なのだろうか。
きっとこの人のスマホフォルダにはカルティエのクリスマスツリーはないんだろうなと思う。
そんなことを考えていたら、自分がすごくくだらない人間なのではと思えてきて落ち込み始めた。
重い気持ちで駅を目指して歩く。
そもそもお金もないのに、こんなところに来た自分が身分不相応だったのかと思う。
なんだかすごくマイナス思考だ。
ぼーっと歩いていたらラフォーレ原宿の前にやたらとカラフルなクリスマスのオブジェが置いてあった。
真ん中にタヌキなのか熊なのかリスの可能性もあるよくわからない置物、両脇にとりあえずのクリスマスツリーらしきもの。
ぱっと見は可愛らしいのだが、なんだか出来が悪い。
派手なわりに外国人しか写真を撮っていない。
自分達の美的感覚に合わないものは黙って排除する日本人って恐ろしいなと思う。
けれどばっちり私はそれも写真に収めた。
タヌキが写っていた。
私は何をしに表参道に来たのだろうか。
品のない写真と疲労がただ増えただけな気がする。
けれど千葉県民のお母さん、あの時私の財布の紐をキュッと閉めてくれてありがとう。
気をつけて生活します…
けどいつかは表参道で狂ったように買い物出来ますように。
コーヒーもお腹壊すまで飲めますように。