ステラおばさんじゃねーよっ‼️91.初恋の萌(きざし)② 〜花を食べるひと
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️90.島の郵便局〜情報弱者 は、こちら。
🍪 超・救急車
カイワレは高熱で気絶すると、夢の世界へ入り込んだ。
⭐︎
果てなく広がる草原で、うつらうつらしながら流れる雲を眺めていた。
誰かの気配を感じ顔を天に向けたが、逆光で表情はかき消されている。
むしゃむしゃ。
居心地のよい雰囲気とやさしい感じがその人からつたう。
むしゃむしゃむしゃむしゃ。
咀嚼で膝が動くたびに、微香が鼻先をくすぐる。
「何、食べてるの?」
その人に訊ねるとそっと一輪差し出し、
「美味しいよ、コスモス。君も食べたら?」
ああ、この香りか。
その人はゆったりと花をはみながら、口元へそれを次々と放り込んでいく。
コスモスの味?
…この人が言うなら食べてみようかな?
そう思った矢先、耳の奥で鼻にかかる甘たるい声を感知した。
⭐︎
「先生、大丈夫ですか?苦しいところ、ありませんか?!」
萌の顔が全面にはっきりと映し出されるとなぜか途轍もなく恥ずかしくなり、カイワレは顔を背けた。
「良かった…少しうなされていたので意識が戻って」
萌はプラスティックの風呂桶に汲んだ水に、額に載せるタオルをくぐらせた。
「うーーん」
カイワレは身体をだるそうに起こした。
「ダメですよ、無理しないでください」
萌は起こしたカイワレの身体を元に戻した。
「あれ、いま何時?」
そんな会話をしながら、花の匂いの正体に気づいた。
それは萌がまとっていた匂い。
どこかの高級ブランドの香水をつけていた訳でもどぎつい化粧品から放つ香りでもないのに、カイワレはなぜかその匂いに引き寄せられた。
まるで、蜜蜂になった気分…。
⭐︎
「ただいま〜」
知波が、仕事を終え帰宅した。
萌は床から立ち上がり、リビングに入ってきた知波に挨拶した。
「はじめまして。わたし、カイワレ先生の出版担当の…」
そう続けようとした時、背後遥か上の方から低い声が聞こえてくる。
「小比類巻 萌さん。母さん俺、ゆめ♡ゆめの出版、決まったよ!」
「えっ?!え、え!!えーーー!!!本当に?ねぇ、本当なの??」
知波はカイワレの思いがけない報告に、歓声を上げた。
萌の存在が意識から外れてしまうほど、知波はひどく興奮している。
背後に立つカイワレの熱い体温と低く響く声に、萌はドキリとした。
がしかしここは社会人としてしっかりと自分を保つために、
「本当ですよ。あらためまして、わたしカイワレさんの出版担当の小比類巻 萌です。今後とも宜しくお願いいたします」
とたどたどしくはあったがしっかりと知波へ告げ、お辞儀した。
「萌さん、こちらこそ宜しくお願いいたします」
知波は興奮冷めやらぬ自分に呆れながらも、嬉しさを隠せなかった。
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