ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜粉雪(パウダースノー)
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🍪 超・救急車
《海洋散骨葬》という言葉にすらなじみがなく、家族3人ともそれについては無知だった。
しかし若森は以前、バックパッカー時代の友人の遺言を果たすべく海洋散骨に立ち会い供養した経験者だった。
よって出発前に若森からその葬儀と流儀について、存分に語ってもらった。
若森は、その時を思い出しながらゆっくりと話し始めた。
「現状、散骨に関しての法律や規定は特段ないからそれ自体は違法じゃないんだ。でもね、所構わず自由に行えるもんでもないよね。節度やマナーを持って散骨するのが、暗黙の了解になってたりはする。それに粉骨しなきゃさ、死体遺棄罪に問われてしまう事だってあるんだ。だから遺骨をしっかり粉砕してね、パウダー状にするのがベストなんだよ」
若森は椅子から立ち上がり、飾り棚に置かれた悠一朗の骨壷から小骨を何本か取り出し、
「俺がすり潰しておくよ。一応、経験者だからね。いいかな、たいちゃん?」
まさかの言動にカイワレは一瞬呆気に取られたが、その奥底にある彼のやさしさを感じ取り、
「うん」
とうなずいた。
⭐︎
パウダー化した悠一朗の骨は今、小瓶の中で眠る粉雪(パウダースノー)のようで、それは若森が慎重に丁寧に骨を砕きすり潰してくれた賜物だった。
「わぁ、悟さんスゴい!」
知波は少女のようなテンションで若森をたたえた。
若森 悟(わかもり さとる)は照れ臭そうに横向き、
「いや、それ程でも…」
と言いながらタバコを咥え、少女の眼差しから逃げた。
そんな若森を見つめながら知波は彼の不器用なやさしさを理解した。
そして彼を好きだという気持が、少しずつ芽吹いているのを心の奥の方で感じていた。
⭐︎
ふたりを乗せた船は、大海原を裂き、風を斬り、鳥海島へまっしぐらに進んでいる。
歩や若森、皆の想いをのせて。
手のひらにつつまれた小瓶そのものが生きているかのように熱を帯びているから降りたての雪はいつか消えて失くなるのでは、とカイワレの心をすっかり虜にしていた。
あの時スキー場で見た雪のように儚く、刹那に溶けないで。
とロマンティックな気分にひたっていた。