
ステラおばさんじゃねーよっ‼️㊿遺言
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️㊾葬儀〜告別式前夜 は、こちら。
🍪 超・救急車
静寂が夜の斎場を埋め尽くした。
またたく星に見立てた青白い電飾が、チカチカと点いたり消えたりし、敷きつめられた白いカーネーションを、ふうわり浮かび上がらせる。
聖の柩(ひつぎ)は銀河にやさしく包まれ、宇宙に浮かんでいた。
その光景は、あの丘で無数の星を眺めているような気分にさせた。
「あのさ。バタバタしてて言えなかったんだけど、看護師さんから封筒を渡されたんだ。聖先生から俺に、って」
「何て書いてあったの?」
「まだ、読んでない」
「でた!たいちゃんの後回しにするクセ。ちょっとそれ、見せて」
謎理論ばかり言うポーちゃんが、今夜はまともなツッコミをカイワレに入れている。
カイワレは頭をかきながら、そばに置いていたトートバッグからかさばる封筒を取り出し、ポーちゃんへ渡した。
⭐︎
封筒には、遺言が記された公正証書や聖の戸籍謄本などの書類、そして鍵とメモが同封されていた。
メモには、下記のように記されていた。
『太士朗へ
これらの書類を持参し、銀行にて貸金庫の物を受け取ってください。
池坊フラワー銀行 本店
手動式貸金庫 No.07072
河愛 聖 名義
聖』
ふたりは聖の柩の方を見た。
「これ、貸金庫の鍵だよね?何が入ってるの??まさかの、金の延べ棒?!」
ポーちゃんはまた、聖に話しかけている。
「それはないでしょ、マジでそうだとしたら怖い」
看護師から受け取った封筒ですら、ポーちゃんに頼ってしか中身を開けられない、弱虫カイワレ。
事実は時に残酷だ。
聖からの遺言の存在が尚更、カイワレを疑心暗鬼にさせる。
「そう言えば」
ポーちゃんは受付で走り去った女性を思い出したものの、その後の言葉を飲み込んだ。
「え、なになに??」
ポーちゃんは首と両手を振り、
「何でもない!金の相場、高騰してるな〜って思っただけ!」
と言い、しらっと視線をカイワレから外した。
⭐︎
休憩交代の時間になり、ひかりはまだ寝足りない顔のまま姿を現した。
「眠い!なんて、言ってられな〜い。ウタ、早めに仮眠とってね」
ひかりはやさしく、ポーちゃんを促した。
眠過ぎて目が開かないポーちゃんは、
「あい、わかりましゅた」
と控室へ向かうのに、ふらふら歩き出した。
「ふふふ。ウタ、半分夢の中ね。可愛い」
とひかりは微笑んだ。
「たいしろうさん、気分はいかが?」
「良いとも悪いとも、何とも言えないかな」
寝不足で思考回路がまわらず、カイワレは思わず本音を漏らした。
「あ、そうだ!」
ひかりはパンと手を合わせた。
「御通夜が始まった頃に、たいしろうさんのお母様らしい方がお見えになってね。御香典だけ置いて逃げるように帰って行ったの」
「え?俺の母親が来たって、どういう事?!」
「これよ」
近くに置いてあった芳名帳の最初のページを開き、「小鳥遊 知波」と書かれた文字をひかりは指差した。
「小鳥遊さんだ」
守秘義務契約書に記入された、右上がりの特徴あるあの文字が、カイワレの脳裡にふっと浮かんだ。
「やっぱりあの方が、たいしろうさんの」
わざわざ斎場まで足を運んだにもかかわらず、聖に御焼香もせずになぜ、逃げ帰ったのか。
「ここに俺がいて、びっくりしたのかもね」
まるで他人事のような口ぶりになってしまったが、投げやりではなく、ただ感情が擦り切れ、疲れていただけだった。
長い沈黙が、カイワレとひかりの間に流れた。