ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜母海(ぼかい)回帰① 母なる海へ
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜お喜久しゃん② いのちのバトン は、こちら。
🍪 超・救急車
島特産の味噌や菓子などをかご一杯に詰め、この店でお土産を購入した。
それからふたりは季(とき)に深謝し、店を後にした。
「また来んしゃぁり!」
店の軒下でふたりを見送る季は、満面の笑顔でふたりへ手を振った。
「ありがとうございます!また来まーす!!」
とカイワレが叫ぶと知波も頭を下げ、季へお辞儀した。
さっきまでの嵐が幻だったかのように、島蝉が大合唱している。
迫りくる死にあらがい、新しい生命へつなぐため彼らは最期の力をふり絞っていた。
なぜか知波は長年土中に埋もれていた島蝉と悠一朗の像を、重ねていた。
カイワレは無言のまま、知波の先を歩いた。
ふたつの日傘は光をはね除け汗ばみながら、ひたすら宿を目指した。
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帰宿すると、冷んやりとした空気が玄関に漂っている。
廊下脇の宿泊部屋に戻ると、硝子ポットに入った麦茶が卓袱台(ちゃぶだい)に置かれていた。
水滴がしたたるポットから茶碗に麦茶を注ぎ、ふたりは一服した。
麦茶を飲み干すと、カイワレはゆっくりと口を開いた。
「明朝、あの白鳥居の真ん前に父さんの遺骨を撒こう」
「…うん、そうしよう」
知波もカイワレの提案に同意した。
カイワレの心中では、
脈々と受け継がれた大根家の若死にという宿命…我が子にだけは遺伝させない。
と強く思った。
そして喉が無性に乾くので麦茶をもう一杯、一気に飲み干した。
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「父さん、いよいよ喜久榮さんの居る《母なる海》へと還るんだね。…今回の旅は、夏男さんや季(とき)ばあのショッキングな真実に逃げ出したくなったけど、この島へ来られて良かったなって思うよ」
知波もうなずきながら、
「太士朗、ありがとう。あなたにふたたび出逢えてなければわたしもこの島には来ていないもの。それは、聖姉さんのおかげでもあるしね」
「それを言ったら、俺らに関わってくれたすべての人に感謝だよね!」
カイワレは天を仰ぎ力を込めて、
「明日の散骨には、夏男さんにも同席してもらおう」
と言い加えた。
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翌朝ふたりが起きて身支度を整える頃には、宿の中に夏男の姿はなかった。
昨晩、明朝6時に白鳥居の前に来るようカイワレは夏男にお願いしていた。
理由も聞かずに夏男は、
「はい、いつもと同じですから」
とうなずき承諾した。
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朝陽が水平線に昇り、海面(うみづら)をきらめかせている。
浜に続く石段を降りると、いつもと変わらず夏男は両手に握りしめた浄塩(きよめじお)を白鳥居にぶつけるように投げた。
それから三者、鳥居へ向けてしばし合掌した。
夏男と知波は神妙な面持ちで、カイワレを見つめる。
緊張を解こうと、カイワレは穏やかな顔でふたりを見やった。