ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜それぞれの旅立ち① 許されざる行為
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜母海(ぼかい)回帰② 粉骨と形見 は、こちら。
🍪 超・救急車
宿に戻るとゆっくり朝食をとり、それから帰り支度をした。
スーツケースいっぱいにお土産を詰め込んで、カイワレはそのチャックを閉めた。
そしてふたりは、民宿【人魚の岬】を後にした。
定期便の船が到着するまで少し時間があった。
波止場へ見送りにきた夏男にカイワレは意を決し告白した。
「あの、喜久榮さんが自殺した時…」
夏男の気色が一気に変わり、カイワレの目をじっと見つめた。
「喜久榮さんが自殺した時、彼女の余命はいくばくもなかったそうです。喜久榮さんはただ、悠一朗をあなたに託したかった。だから…」
夏男は細い目をカッと見開き、
「何処でそれを?」
と語気を強めてカイワレに投げかけた。
「島の人から聞きました。僕が喜久榮の孫だとしると、教えてくださりました」
夏男はあからさまに、憮然とした表情を見せた。
この数十年、島に移住し島のために貢献してきた自分を追い越し、よそから来て数日しか経たぬ若造が、《血縁がある》という理由だけで信頼されてしまう。
他人(ひと)の信頼を勝ち得るのなんて、そんなもんなんだな。
落胆し肩を落としたが、おのれがした喜久榮への仕打ちを思えば、さもありなんと唇を噛んだ。
カイワレは続けた。
「だから喜久榮さんの自殺は、夏男さんのせいではないと思います。僕としても、死期が近く苦しくったって、最期の最期まで生き抜いて欲しかった。それはきっと幼かった父さんも同じ気持だったと思うんです」
夏男が喜久榮の自死について考えてきたのと同じように、カイワレも同じに考えてくれた事には嬉しさを感じた。
「でも…」
カイワレは溢れ出てくる感情をすべて吐き出そうと続けた。
「でも悠一朗も若くして自殺し、亡くなった…」
「はああ?!まさか、そんな事…」
夏男は初めて知った事実に、驚きをを隠せない。
「母いわく、父は当時精神を患っていたとの事なので自制が利かず、致し方ないとも思います。でも死の誘惑が目の前にあったとしても、生きるということには貪欲であって欲しかったと僕は思うんです」
それを聞くと知波は目を伏せ、サンダルの底にくっつく砂を擦(こす)った。
「それに僕は孤児として育ちました。最近まで僕には家族がいないのが当たり前なんだと受け容れて生きてきました。けれど奇跡的に母や妹、伯母に出逢い、今は大切な家族がある。大げさではなく夢のような毎日を過ごしているんです。
病気や生活苦のせいにしたり、人間関係で上手くいかずに誰かのせいにして死を選ぶという行為は、どんな人であれ僕は絶対に許せません!
だって急な病で急逝した伯母のように、どんなに生きたくても生きられない人は山のようにいるんですから!それに残された人間にとっても、それは生きる気持を削られてしまう行為なのだから
!!」
悠一朗を失った時の想いがぶわっとよみがえり、知波は涙を手でおおった。
「僕はのんびりした性格だけど、生きる事には貪欲でありたい。それにどんなに苦しくても、周りを悲しませる自殺という行為だけは絶対に選択しません!」
カイワレの告白と決意を聞きながら、夏男は心の奥底を見透かされているような気持になった。
夏男は、ずっと考えていた。
やるべき事をすべてやり切ったら、彼らの待つ海で自死しよう…と。