ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜月夜の人魚-2
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🍪 超・救急車
海鳥の一群が頭上や眼前を飛来し、喚きながらくんずほぐれつしている。
カイワレは微動だにせず、夏男の告白を聞き続けた。
さっきまで夏男に色々話してもらいたいと切望していたのが嘘のように、その想いが消失していた。
なんなら口をつぐんで欲しいとすら思った。
けれどそのような状況にない事も重々理解していた。
間髪入れずに夏男は、3人の物語を加速させていく。
「喜久榮さんはこの岩に座り、月光に照らされ妖しく私をじっと見下ろした。悠一朗さんは少し離れた岩場の近くで、砂あそびに夢中になっている。喜久榮さんは悠一朗さんを指さし、
″こん子は、あんたん子よ。名は悠一朗。つい最近4つになったばかり。認めてくださりゃあせんか、あんたん子であると。わたしゃあ、あんたにこん子を認めてもらえたりゃあそれでいいんです。お認めくださりませんか“
と私に訴えてきました」
唇を噛みしめ、深い後悔と哀しみに支配されたまなざしで夏男は続けた。
「いきなりそのような告白と懇願をされた私は、その場で頭をかかえしゃがみ込んでしまった。岩の上から見下ろし私に乞い願う姿ですら、彼女は淫靡で妖艶だった。しかし私にはまだまだ子を持つ親の覚悟なぞ皆無で、急に突きつけられた重大な命題に対し確たる返事の言葉を持たなかった。だから彼女に、
″いきなり言われても無理です。私の子だという証拠はありますか?“
…若気の至りとはいえ、無慈悲で卑劣な言葉を浴びせてしまった。彼女はわたしの言葉を一身に受けあきらめたように呟き、
″…わかりました。ありがとう。さよなら…“
と言い遺し、彼女はそのままこの海に飛び込んでしまったのです」
「え?!」
カイワレは思わず声を発した。
そしてすぐに、
「悠一朗はどうなったのですか?」
と夏男に問いかけた。
夏男はうつむき肩を落としカイワレに答えた。
「数日間私が警察に勾留されていた間に、悠一朗さんは喜久榮さんの内地に住む親戚に引き取られてしまっていた。その騒動以降、喜久榮さんの自殺動機も悠一朗さんの行方も、島民誰ひとり私に口を割る者はいなかった。だから私が悠一朗さんに会ったのは、喜久榮さんに再会したその日が最初で最後だったのです」
天を仰ぎ落涙しないよう、涙声で夏男は続けた。
「その日のこの海辺では月明りだけが頼りだった。なので悠一朗さんの顔をはっきりと見られるような状況でもなかった。それに海から上がってこない喜久榮さんに動転し、その対応に追われ、その前後の記憶もあいまいで…けれど私は、わずかな望みと喜久榮さんの手紙から手がかりを探り、彼を見つけ出すためにくまなく手を尽くしたが…」
首を振り無念ににじむ夏男の表情を見れば、悠一朗の行方について死力を尽くし捜索してきた事がうかがい知れた。
我がもの顔で上空を占拠していた太陽は、いつの間にか巨大な黒雲に呑まれ、ふたりの表情もさらに曇る一方だった。