ステラおばさんじゃねーよっ‼️52.太士朗へ〜聖からの手紙〜
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🍪 超・救急車
『太士朗へ
初めて太士朗へとしたためてみても、わたしにとっては違和感がありません。
いつもあなたの事を心では、太士朗と呼んでいました。
あなたが退園するまでの15年間、わたしは毎日沢山の思い出を積み重ねる事ができました。
優しい話し方やかわいい表情、あなたのすべてがわたしの宝物でした。
ただ、あなたに伯母だと名乗る事はできませんでした。
それはあなたのお母さんと墓場まで持って行くと約束したからです。
でも墓に入る前に、最初で最後の手紙をあなたへ書きたくなりました。
かなり苦しくなるでしょうが、どうかこの現実に目を背けないで下さい。
この話は、あなたが家族に愛された証でもあるからです。
あれはあなたが産まれた26年前に遡ります。
わたしの妹、つまりあなたのお母さんが元気な男の子を産みました。
名前は大根 太士朗。
太く・立派に・朗らかに生きて欲しい、そんな想いで名づけられたそうです。
あなたが生まれたばかりの頃、あなたのお父さんは小さな町工場の二代目として会社を切り盛りしていました。
あなたはお父さんとお母さんから、愛情をたっぷり受けてすくすくと育ちました。
しかしそんな幸せの日々はつかの間、お父さんの知人が会社の運転資金を持ち逃げし、姿をくらましてしまった。
それから会社は間もなく倒産。
お父さんは行き場のない怒りや不満を、自分自身にぶつけ塞ぎ込みました。
そして重い鬱状態になっていきました。
あなたが3歳になった頃、状況は一変します。
あなたのお父さんは、死にたいと言うようになりました。
妹はあなたとあなたのお父さんを、心から愛していました。
だから姉であるわたしにも、愚痴ひとつこぼす事もなかったのです。
ある日急に妹からわたしに電話がかかってきました。
妹があなたのお父さんを殺した、と言うのです。
わたしはすぐに、あなたの家に向かいました。
家に入ると、あなたのお父さんの胸に刺さった包丁と鮮血が真っ先に目に飛び込んできました。
でもあなたのお父さんは、わたしが駆けつけた時は、まだ息がありました。
妹はあなたをおんぶしたまま、倒れたあなたのお父さんの側に座っていました。
そして包丁の柄を妹が持って、ひたすら泣いていました。
でも妹は包丁に触れただけで、あなたのお父さんを刺した訳ではなかったようです。
わたしは気が動転していて、妹が持ったまま離そうとしない包丁を、一気に引き抜きました。
するとあなたのお父さんの口や胸から大量の血が噴き出して、動かなくなりました。
大量の血を見て、わたしがとどめをさしてしまったんだと思いました。
その後は無我夢中で、あまり記憶がありません。
お父さんの遺体は妹も知らない場所へ、わたしひとりで埋めました。
だから妹は、あなたのお母さんは、何も悪くないのです。
悪いのは、すべてわたしです。
こんな罪を犯し、隠蔽した伯母をゆるして欲しいとは言いません。
ただ、ひとつだけお願いしたい事があります。
図々しいのは、百も承知です。
わたしの大好きなあの丘に、わたしの墓を建ててもらえませんか。
あの桜の樹の下で眠りたいのです。
あの土地はわたしが買い取り、所有しています。
この手紙と一緒の包みに現金で500万円を入れておくので、それを使って下さい。
安く墓を建てて、そして残りのお金は太士朗が、遺産として受け取ってください。
死んだ後にもこうやって、甘えてばかりでごめんなさい。
そして、ポーちゃんへ
これからも太士朗の事を宜しくお願いします!
そして心よりご結婚おめでとう!
とお伝えください。
あなたの伯母になれた事が、わたしのただひとつの誇りです。
太士朗、ずっと愛しています。
あの丘の守り人
河愛 聖』
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