ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜母海(ぼかい)回帰② 粉骨と形見
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜母海(ぼかい)回帰① 母なる海へ は、こちら。
🍪 超・救急車
薄手のシャツのポケットに忍ばせた小瓶を取りだし、それを高々掲げるカイワレはふたりに開式宣言した。
「それでは、これより父・悠一朗の散骨式を執り行います。この瓶に眠る我が父を、祖母の待つ海へ還しましょう」
悠一朗の粉骨が配られると、浜辺で横並びに3人はしゃがんだ。
右手で受けた粉骨を左の人さし指でなぞり、夏男はそれを愛でながら呟いた。
「これが、悠一朗…。こんな形だがやっと出逢えたわ」
涙を流しながら骨の感触をたしかめるさまは、父親そのものだった。
「もっと早くに、生きているうちに見つけてあげたかった!」
右手をぎゅっと握りしめ、指腹にひっつく粉骨をひとくち舐めた。
そしてそれ以外の骨は海水に溶け込むように、やさしく手のひらから放(はな)った。
知波は両手の中央で受け止めた粉骨に、語りかけた。
「悠一朗さん、長い間つらい想いをさせてごめんなさい。お母さんの海に一緒に連れてきてくれてありがとね。今度こそ、安らかにね」
懺悔と感謝と希望の言葉を伝え、彼の一部を名残り惜しげに海へと流した。
カイワレは左手にのせた我が父の粉骨を、丁寧に海へと還した。
「父さん、安らかに…。おばあちゃん、よろしくお願いします!」
と呟き合掌した。
悠一朗の粉骨は一瞬で波に呑まれ、消失した。
それを皆で静かに見送った瞬間、この島で見聞きし複雑にからまった感覚や感情からすーっと解き放たれた気がした。
ーーーそして、カイワレは祈った。
これから出逢う人や付き合っていく人とは、《凪みたいで穏やかな》関係である事を。ーーー
⭐︎
朝陽に映えた朝凪の海は、静かだ。
寄せては返す波音だけ、耳に届く。
鮭が産まれた川へ戻るように、悠一朗はやっと喜久榮が泡となり消えた海へ帰れた。
ふたたびふたりは、この海で出逢うはずだ。
「これ…」
夏男は突如、カイワレと知波に何かを見せた。
それは若かりし喜久榮と幼き悠一朗の写真だった。
「太士朗さんに、悠一朗の面影があるな」
ふたりは、セピア色の女性と男児を無言で見つめた。
その母子は、満面の笑顔で寄り添いたたずむ。
「これ、唯一の形見なんです」
夏男は空を見上げて言った。
3人はそれぞれの達成感により晴々しい気持に包まれ、柔和な面立ちで海を見つめていた。
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