ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜人魚伝説② 白鳥居
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜人魚伝説① 父と海女 は、こちら。
🍪 超・救急車
就寝間際、広間に集合した3人は囲炉裏を囲み車座になった。
「何から話せば、良いですか」
夏男は渋々言葉を吐き出しているのがふたりにはわかった。
しかし知波は容赦なく夏男に質問をぶつけた。
「まずお伺いしたいのは、この島に伝わる文化や伝統・伝説について教えていただけないでしょうか」
夏男は少しの間沈黙してから重たい口を開いた。
「鳥海島は、いにしえより【神秘の島】と呼ばれておりました。最も内国からは遠く外国からは近かったせいか、異人との交易も盛んに行われておりました。そして特にこの島近海では、船乗りから頻繁に【人魚】の目撃情報が飛び交い、その姿を見、哭く声を耳にすると、生気を吸われ瞬く間に絶命するとの噂も流布されたのでした」
一服し口を湿らすと、ふたたび夏男は話しだした。
「嘘かまことかわからぬ噂は当時の島民にとっても不気味で恐怖だった。人間をそそのかし刃を向ける人魚の所業は、横暴に海の世界を牛耳る人間への怒りなのか?…いまだ理由はわからぬままだがせめて彼らによって絶命した人間の魂を鎮めるため島民は、《白鳥居》を海岸に建て人魚の骸(むくろ)を祀ったという記録が残っているのです」
知波が生前の悠一朗に聞いた【人魚伝説】が、夏男の話でより現実味を帯び鮮やかな光景として浮かび上がった。
以前ネット検索し、目にした【人魚伝説】の記事とは、若干異なる事にカイワレは気づいた。
「あの、ご存知ならば教えていただきたいのですが、今から40年前にこの島に住んでいた大根 悠一朗という者をご存知ありませんか?」
知波が夏男にそう問いかけると、彼の顔色はみるみると青ざめていった。
「存知上げません」
そう言うと夏男はすくりと立ち上がり、
「気分がすぐれませんので今夜はこの辺でご容赦願います。悪しからず」
と夏男は首を垂れたままそこから離れた。
知波は、
「大丈夫ですか?わたし、看護師ですので診せてください」
そう引き留めると夏男は大きくひらいた右手を知波に向けて、
「心配にはおよびません。おやすみなさい」
と言い残し、厨(くりや)の暗闇へと融け入った。
ふたりは夏男の急変に違和感を覚えたが、明日の快復後にまた話の続きを聞けばいいと思い直す事にした。