ステラおばさんじゃねーよっ‼️㉔負けるが価値
👆 ステラおばさんじゃねーよっ‼️ ㉓アミダクジ は、こちら。
🍪 超・救急車
ポーちゃんが必死にアミダクジの作戦を練っている最中、気づけばカイワレは、悩み疲れて居眠りをしていた。
この2日間で蓄積された疲労は途轍もなく、思った以上に心身のダメージは大きかった。
カイワレはいつものように《目醒めたら、まったく覚えていない》短篇の夢を見た。
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「ねえねえたいちゃん、おしろをつくろう!」
「いいよー!」
幼いポーちゃんとカイワレは、砂場でワイワイと遊んでいる。
「どんなおしろつくるー?」
ポーちゃんはプラスチックの小っちゃなスコップで、穴を掘ったりバケツに砂を入れたりしている。
注意して見ていると、ポーちゃんはスコップを左手で握っている。
「あれ?ポーちゃんって、左ききだっけ!?」
違和感を持ったカイワレは問いかける。
「僕は左ききだよ。たいちゃんは右ききだね!僕は左がすき、たいちゃんは右がすき」
ポーちゃんらしい謎理論が展開される。
「俺は右ききだから、右がすきなのか〜」
変に納得していると、遠くの方から小さい叫び声が聞こえてくる。
「みぎですかーっ!」
その声はハウリングしながら、だんだん大きく近づいてくる。
「ひだりですかーっ!!」
カイワレは誰かに両肩をつかまれ、ガクガクと揺さぶられ、最大音量の声が耳を引き裂く。
「みぎですかーーーっ!!!」
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「え、え何?!」
カイワレは揺さぶられた勢いで、椅子ごとひっくり返った。
目を開けると覆面レスラーのマスクを被った男が現れ、口元に笑みを浮かべつつカイワレを見おろしていた。
「チャーラーラーラー チャーラーラーラー♪
ッシャーーー!!
運命のアミダクジだあ!!!
天気になれば、何でもできる!!!」
覆面男はプロレスの入場曲を口ずさんだ後、場外乱闘でパイプ椅子を振り下ろす悪役を真似て、アミダクジのペラペラ紙を両手に持って、何度か振り上げ、テーブルの上に叩きつけた。
カイワレはプロレスの演出に笑いもせず条件反射で、
「右!」
と言った。
「ッシャーーーー!!!」
と声を発しながら、赤ペンで右レーンを楽しそうになぞっていく覆面男。
レーンの終着には当然、紙の折り目がある。
そこをめくれば、○母を探す、または、×母を探さないの、どちらかの命運が待ち受ける。
「ッシャ!!心の準備はいいですかー!」
「はいっ!」
「イチ、ニー、サン!!!シ〜」
威勢良いかけ声とは裏腹に、覆面男は地味にその折り目をひらいた。
「ッシャーーーーー!!!マルッ !探すっ!」
覆面男は紙を見せながら叫んだ後、はぁはぁと肩で息をしながらカイワレの顔を見た。
「あーーー探す、か…」
ふぁぁーっとため息をつき、カイワレが頭を抱えると、覆面男の怒りは最高潮に達した。
「探す相手が死んでたらねえ!天気になってもなんにもできないんだよおっ!!」
汗まみれのマスクを脱ぎ、床に思いっきり叩きつけたポーちゃんはいたたまれなくなり、バタンッと大きな音を立て扉を閉め、自分の部屋に引きこもってしまった。
取り残されたカイワレは、呟いた。
「天気になっても、だよね…」
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カイワレは、わかっていた。
このチャンスをみすみす手ばなすカイワレを、ポーちゃんが許さない事を。
そして必ず右レーンの先に、ポーちゃんの思い通りの結果になる○が仕込んである事を。
カイワレは昔からいつも、アミダクジ対決で必ず右を選んで負けるようにしてきた。
自分が負けてでも、ポーちゃんが勝って喜ぶ姿が見たかった。
カイワレの喜びは、ポーちゃんに《負けるが価値》だったから。
これからだって…。
しかし今回は事が事なだけに、右を選択するかどうかは迷うところだった。
ところが覆面男のノリに釣られたのもあり、いつものクセで右を選んでしまった上、本音がだだ漏れになった。
どちらを選ぼうとも、カイワレには気が重い結果だけが待っていたのだ。
ほとぼりが冷めたら、冷凍庫に買いだめしてあるポーちゃんの大好きなアイスクリームを持って、部屋をのぞきにいこう。
そして、《母さがし》のこれからについて、ポーちゃんにきちんと相談してみよう。
その前に、カイワレは少し休みたかった。
ゆっくりと腰を上げ、カイワレはダイニングから自室へゆらりと戻っていった。