ステラおばさんじゃねーよっ‼️⑧母娘(おやこ)の絆〜知波と歩
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️ ⑦最涯ての夢 は、こちら。
🍪 超・救急車
小鳥遊 知波(たかなし ちなみ)は、毎朝この時間はバタバタだ。
「歩(あゆむ)、早く起きないと遅刻するわよ!」
知波は2階にある娘の部屋へ乗り込み、カーテンを全開にし、布団にくるまる歩を全力で起こそうとする。
「うーーん、まぶしいよ」
「ほら起きないと、憧れの先輩に今日も会えないかもよ?」
知波は布団をはぎ取り、パジャマ姿の歩の脇腹をくすぐり、追い討ちをかける。
「キャハハハハハハ〜!くすぐった〜い!!わかった、わかった!起きるからやめて」
18歳にもなって、毎日このやりとりが繰り返されている。
そんなひとときも、知波には大切な時間だった。
「早く起きて、着替えなさいね」
まずは、第一関門突破。
あとは歩に準備した朝食を食べさせて、と。
知波は淡々と次のフェーズに、歩を導く。
時計代わりに点けているテレビからは、本日の星占いの運勢が下位から順に映し出されている。
「あ!双子座、最下位だわ」
と、トーストをかじったままでうなだれる歩。
しばらくして、「ママの星座、一位じゃん!」と、歩は興奮気味にテレビを指さし、さそり座の本日の運勢が一面に映された。
歩は、わざわざ声に出してそれを伝えてくる。
「本日最も素晴らしい運勢は、さそり座のあなた。気になる相手には、積極的になってみて!新しい2人の関係が見えてくるかも。ラッキーカラーは、水色。ラッキーアイテムは、食後のコーヒーです♪」
アナウンサーが原稿を読み伝えるように、歩はおどけて知波に向かって伝えた。
「もう、星占いなんて見ている場合じゃないでしょ!」
「は〜い」
「早く食べて、行きなさいよ」
名残り惜しそうにダイニングテーブルの椅子から立ち上がり、歩はスマホの時計に視線を落とす。
「ヤバい、バスに乗り遅れる!」
この言葉を歩から引き出し、学生鞄を持って玄関へ駆け出したら、第二関門突破。
あとは玄関外に出て、歩へ手を振るだけだ。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
「いってきまーす!」
朝の閑静な住宅地が、一瞬にぎやかになった。
ドタバタ劇の幕は静かに下りて、知波はほっとするのと同時に、自宅ポストに刺さる朝刊の新聞を手にとり、リビングへと戻って行った。
玄関に続く花壇には、夏越えしたシクラメンの葉が少しずつ大きくなり始めていた。