ステラおばさんじゃねーよっ‼️93.202×年11月1日
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️92.白色アマリリス〜花言葉のくだり は、こちら。
🍪 超・救急車
カイワレが目醒めたのは、昼下がりの時分だった。
ピピピピ ピピピピ ピピピピ…
スマホのスヌーズ機能が何度もカイワレを起こそうと、躍起に鳴る。
ゆうべから徹夜し、朝方までかかってどうにか〆切直前の原稿を書き上げると、それからすぐにベッドへ傾れ込むのだが、それはついさっきの出来事のように感じてしまう。
厚手のカーテンが光をさえぎったままだから、まどろむカイワレの視界も真っ暗だ。
カーテンと窓をスパッと開け放ち、薄曇りの空をぼんやり眺めだすと、北風が気やすく頬をなでてきた。
今日は何曜日で、何月何日なんだろう?
ライターの職業柄、曜日や日付の感覚がなくなるのは珍しくも何ともない。
すでに卓上カレンダーは景色の一部と化し、本来の役目を果たせていない。
その脇に、1年前の誕生日に歩からもらったプレゼントがひっそりと佇んでいる。
それらは有名猫キャラと黄色熊のフィギュアで、ふと目が合うと彼らは、不敵にこちらを見返す。
スマホを手に取り、トップ画面を見ると、《202×年11月1日(土)14:07》と表示されている。
11月1日か。
今日は俺と有名猫キャラの誕生日。
俺、28回めの。
コイツ、50回めの。
俺と22歳差。
かわいい顔して年を食う有名猫キャラフィギュアの頭に人さし指を軽くのせ、撫でた。
⭐︎
洗顔しに行こうと自室の扉を開けようとしたが、何かが引っかかり開けられない。
「おーい、誰かー!」
居るか居ないかわからぬ家族の誰かを、カイワレは呼んだ。
「……あ、起きた。たい兄、ちょ〜っと待っててね〜」
歩の声が、扉越しに聞こえる。
扉を小さく開けると、歩はそのすきまから部屋に入ってくる。
「今からリビング、ダイニングを横切ると思うんだけど…はい、これ」
歩がカイワレに、アイマスクを手渡す。
「何、これ?」
歩は何かに追われている様子で、
「シーッ!いいから今だけこれを付けて、部屋移動お願いします!!」
と小声でカイワレに伝えた。
「誕生…」
カイワレが言いかけると、
「あーハイハイ、皆まで言うな!…今から行きたい部屋を教えて。これ付けたら、あたしがたい兄をエスコートするからさ」
アイマスクを指さし歩は言った。
「じゃあまずはトイレだな。それから浴室へお願いします」
カイワレが意思表示すると、歩は指でOKマークを作った。
⭐︎
アイマスクをし歩に手を取られ、真っ暗な世界を進んでいくと、周りでうごめく気配を感じる。
それらはカイワレが動き出した途端、刹那にピタリと止まる。
煮つめたトマトや魚介だしの香りが、鼻の奥に次々と飛び込んでくる。
ビンゴ!誕パの準備、だな。
歩にエスコートされ、トイレと浴室でカイワレは用を済ませた。
その後は、自室から出ないように心がけた。
⭐︎
今日はオフだから、横になってゆっくり好きな音楽でも聴こう。
カイワレはアイマスクをしたままヘッドホンを耳に当て、音楽の世界へ没入した。
するとたちまち瞼が重くなり、あっという間に夢の世界へ迷い込んでいた。
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