【エッセイ】エンパス!現実主義の母と私と幽霊と 29. 兄妹でも違う母への想い
私の前世がユダヤ人で母がナチスであるならば、兄は国連の立場のような人だった。
小さい頃、家族の中で唯一私を助けてくれたのが兄だった。だからだろう、ある意味死んだ旦那の時と同じように、兄には盲目的に信頼や好意を寄せていた時期がある。
バカとかアホとか否定の言葉を浴びながら育ったが為に自尊心が低かった私の悪い癖は、少し優しくされただけでその人が良い人だと思ってしまう事。そう認定してしまえば良い部分だけがその人の全てだと思い込み、悪い部分は見ないフリ、気づかないフリをしてしまうのだ。
思い返せば兄にもグサリと胸を刺された出来事が紛れもなくあったはずなのに。
油断するとバッサリ切られる。助けてくれたかと思えば突然冷たく突き放される。そんな感じで今いち距離感が掴みきれなかったのは、兄が前世で国連の立場のような人だったからだ。私が勝手に勘違いしただけで、けして私だけの味方だった訳じゃない。私の味方でもあるけど、母の味方でもあったのだ。あるいはどちらの味方でもなかったか。
ところで、私はこのnoteを始めた当初[詩]とは別の名前を使用していた。
それは他活動中の楽曲と小説で使っているのと同じもので、本当はそっちの名前でやりたかった。(もしかしたらこのエッセイから楽曲や小説を見にきてくれる人がいるかもと期待したから)
しかし思い直してそれはやめた。
途中から別名を使う事にしたのは兄の存在がチラついたからだ。兄は私の楽曲や小説のクリエイター名を知っている。もし何かの拍子にこのエッセイの事が知られれば母に、親戚に言うかもしれない。それが怖くなったのだ。
しかも兄は母と同様に現実主義な所がある。
家では幽霊話は禁止だったし、少なからず母の影響があるかもしれない。私がエンパスという事も知らないだろうし、たぶん言ったところでそれ自体否定してくるかもしれないのだ。
以前、私が信頼していた霊能者を「詐欺師」と言い切っていた時には唖然とした。ネットの誹謗中傷記事を鵜呑みにしたばかりか、この人は本物と偽物の違いも分からないのかとショックを受けて……。
その時、ああ、この人は私とは違う人間、違う価値観でものを見る人なのだなと思ってしまった。密かに心の距離を取った、線引きしてしまった、そんな瞬間にもなってしまった。
そんな兄だが、最近では中立どころか、母の方をすごく気にかけている。
兄妹でも母親に対する想いは違うし、もともと男ってお母さんが大好きな生き物なんだと思う。
私はまあ、あれだけ差をつけられて育ったのだから未だ苦手意識があるのは当然だろう。
しかし少し信じられない思いもある。兄も高校1年ぐらいまでは母に厳しい態度をとられていたはずなのに、その後の母の変わり様で、それまでの憤りなど全てがチャラになったという事だろうか。
実は不倫相手と別れて数年、母は別の男性と再婚しようとした事がある。その時、猛反対したのが兄だった。母を取られたくないと、兄はそんな本音を私に漏らした。
例えそれまで厳しくて、優しくされ始めたのが高校生からだったとしても兄には手遅れじゃなかったのだ。
母は見事に挽回したし、兄はもう昔の恨みつらみは一切言わず、今では本当に母を大事にしている。それはそれで良かったと思うし、これを見ても男性にマザコンが多いというのは何だかすごく頷ける話だ。
わだかまっているのは私だけだなぁ。
そりゃそうだ。私は何も挽回されていない訳だし。女だからってずっと底辺扱いだったのだから。でも昔の鬱憤を今になって晴らすほど私は幼稚ではないけどね。
これでも私は私なりにいろいろ母に尽くしてはいるのだ。病気になった母の世話や看病だってそうだし。
そんな母は今でも私に暴言を吐くし当たり散らす事がある。
例えばコロナ禍で小池百合子氏が英語の横文字ばかりを使っているのに対して相当怒りを露わにした。
「横文字ばかり使いやがって!年寄り分かんねぇだろうが!」と言っては私に布巾を投げつけてきたのだ。「どいつもこいつも横文字ばかり!」と物にあたり、その後は私へ飛び火して、アレの置き場所が違うだの怒鳴られて。
そんな理不尽な態度を取られた後は、もう嫌だあんなやつ大嫌い! と落ち込む私。でも次の日にはスーパーで、「あ、これ病気に良いやつだ」なんて、母の為にお徳用の牡蠣を買ったりしているのだから不思議なものだ。
これもエンパス体質故なのか、例え恨みやわだかまりはあれど、苦しんでる人を前にしては放っておくなんて出来ないんだよなぁ。
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