【エッセイ】 エンパス! 現実主義の母と私と幽霊と 9. 逃げた先も地獄
いくら守護霊が何かしらメッセージを送ってきたとしても、私の場合だと、死なせない為に前世の記憶を思い出させたとしても、結局は受け取る側に問題があれば全ては無意味になってしまう。
例えば人を拒絶する余り自分の殻に閉じこもって耳を塞ぎ、そのメッセージに気付けないとか、受け取ったとしても偏見や先入観で間違った解釈をしてしまうとか。
私はずっと死にたい願望を捨てられなかった。自殺未遂をやめられなかったし、暇さえあれば口癖のように「お願い、誰か私を殺してくれ」と呟いていた。
守護霊が死なせないようにしているのは分かっている。けれど当時の私はそれを無視した行動ばかり取っていたし、なんなら「助けてくれないから悪いんでしょ!」と守護霊に八つ当たりもしたものだ。
それほどまでに全ての苦しみの元凶は母だったし、一緒に暮らす生活に疲弊していたし、精神的苦痛から解放されたかった。
そんな母の支配から逃れるチャンスがやってきたのは、当時バイトをしていた店で働いていた時の事だった。
店長が店のお金300万を持ち逃げしてしまい、新しい店長を迎えるにあたり、オーナーから店長代理になってくれないかと頼まれたのだ。
断る理由もなかったので承諾し、その後来た新しい店長とは割とすぐに打ち解けた。
そこで私のひどい世間知らずが後の不幸を呼び込む事になる……。
通いやすくする為、オーナーは店からすぐの所にあるアパートを店長の為に用意していた。ところがそのアパートを店長は私に譲ったのだ。
理由は、私が母との関係が良くない事を知っていたからで、部下のストレスが減るんだったら逃げ場所を用意してあげたい、家賃は半分でいいなど、実に甘い言葉を囁いた。
よせばいいのに私も、母から逃れたい一心で藁にもすがる思いでその誘いに乗ってしまった。そして一人暮らしを始めた途端に地獄へと転がり落ちてしまったのだ。
実は店長が私にアパートを譲った本当の目的は私を監視する為だった。
店長は初対面から私に好意を抱いていたらしく、その後告白もしてきたが、私にその気がないのが分かるとストーカーになり散々私を苦しめた。
住む前から怪しいと疑う部分はたくさんあった。でも、私は母から逃れたい一心でその危険信号に気付かないふりをしたのだ。無視をしたのだ。その結果があれだった。
ストーカーの中年男はある意味知恵が回る陰険な奴だった。外堀を埋め自分の味方を増やし私をどんどん孤立させ……。
オーナーも完全なるストーカーの味方だった。昔助けられた恩があるとかで、私の話には全く聞く耳を持たない。
更にはこのストーカーには警察署に勤務する友人もいて事をもっと複雑にした。
ストーカーは実にストーカーらしい事をした。何時何分電気がついたなど細かな監視情報の記録はもちろん、捨てたゴミの中身まで調べられ……。
実はストーカーは私の部屋の合鍵も持っていた。そして私が留守の間に忍び込んだりもしていて、ある時は部屋に店の商品を並べて写真を撮り、その写真をパートのおばちゃんや店のお客さんたちに見せていた。
「あの女が店の商品を盗んでいる」などと触れ回り、そうやって私の悪評を広めていたのだ。その他にも中傷ビラなど、ありとあらゆる嫌がらせをされ、反論すると警察の友達を盾にした。
もう、他にもこんな地獄があったのかと思うほど精神状態はボロボロだった。ストーカーを心の底からとことん憎み、母にさえこれほどまでの憎悪の念は抱いた事はなかったが、人生であんなにも人を憎んだのは初めてだった。
私がこの地獄から逃れられたのは、男が最後の方で自滅してくれたからだった。急に精神に異常をきたしてきて、やっとみんなが「この男がおかしいんじゃないか?」と気付いてくれたのだ。
どんなに脅されてもこの男の気持ちを無視し続けた私の行動が幸いしたのだろう。男が錯乱しながら、「何故分かってくれないんだ!」「昔のお前はこんなんじゃなかった!」「元のお前に戻ってくれ!」など訳の分からない事を言い始めたのだ。
実はそのストーカーは以前、恋人を白血病で亡くしていた。
私がその人に似ているという理由で私に執着していたのだ。
ともあれ、逃げた先も結局地獄だった私はとことんまで打ちのめされ、結局は母がいる元の場所に戻る事になってしまった。
世間知らずだった私の自業自得。
痛い目を見る事で世の中そんなに甘くないのだと思い知ったし、それからはより強く人に対する警戒心を持つようになった。
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