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ドタキャン上等

「ごめん!1日勘違いしてた!」

約束の時間を10分ほど過ぎた時、その日会う予定だった友人からメッセージが届いた。
今日の約束を明日だと思っていたらしい。
今から行くのは厳しいとのこと。

めちゃくちゃ謝られたが、私は今日でも明日でも都合がよかったので、それじゃあ明日に変更しようかーということでメッセージのやり取りは終わった。

「これからどうしよう」

何しろ数時間の予定が丸々空いたのだ。
明日やりたかったことを今日やろうか、それともせっかく来たこの辺りを散策しようか。
少し悩んで、散策することにした。

その場所は、数回訪れたことがある程度で、周辺に何があるのか詳しいことは知らなかった。近くのベンチに座り、グーグルマップを開く。
近くに美術館があるらしい。
ホームページまで覗いてみると、気になっていた作家さんの展示会がそこで行われていた。しかも入場無料。
行かない理由はなかった。すぐさまスマホをポケットにしまい歩きだす。

歩きながら、「何事も過度に期待することはよくないのかもしれない」と考えていた。
今日でも明日でも都合がよかったが、少しガッカリしたのは事実。
ただ、それは今日の予定をドタキャンされたことに対してではなく、その友人と数年振りに会う楽しみが先送りされたことに対してのガッカリだった。
それくらい早く会いたかった。
それくらい楽しみにしていた。

物は落ちる位置が高ければ高いほど、速度を増し落ちた時の衝撃も大きくなる。
期待値も上げれば上げるほど、想像と違っていた時のギャップに深く落ち込んだりする。
じゃあ最初から期待しなければ、気持ちの振れ幅も小さくなって落ち込むこともないのだろうか。いや、その予定を楽しみにすることで、仕事のモチベーションにもなり得るから一概には言えない気がする。

多分これは、外れた期待の大きさと、その後気持ちをうまく切り替えられるかどうかに依存するのだろう。
今回の場合は、翌日も空いていたし、別の予定をすぐに決めることができたこともあって気持ちの振れ幅は小さかった。逆に友人が勘違いしてくれなければその展示会を見つけることは出来なかったので、むしろラッキーだった。
つまり、リカバリーがすぐに成功したのだ。

このリカバリー、場合によっては長い時間がかかったり、ずっと成功しないままだったりする。
行きたかったラーメン屋が定休日だった時と、希望していた場所とは全く違う地域への転勤を言い渡された時、両方を同じ気持ちで受け止められる人はいないだろう。ラーメン屋は別日に行けば済む話だが、転勤となればそう簡単にはいかない。人生を左右する出来事だ。

私自身、新卒で初めて配属となった場所は、生まれ育った神戸とは縁もゆかりもない岐阜県だった。初めての地で初めての一人暮らし。不安は尽きなかったが、慣れてくるとそこでしか出来ない生活を楽しめるようになっていた。

結局1年程暮らした後に転職して今は東京に住んでいるが、最近になってようやく岐阜に住んでいた時間もかけがえのないものだったと思えるようになった。今自分がここにいられるのは、紛れもなくあの時間があったからこそなんだと胸を張って言える。2年ほどかけてリカバリーに成功した。

一寸先は闇という言葉があるように、見通しのつかないものにいつだって私たちは不安や恐怖を感じる。できることなら脱線することなくきちんと整備されたレールの上を走りたい。

でも、闇が存在するのはその裏に光がある確かな証拠でもあるのだ。いつだって明日のことは不確かだからこそ、僅かでも照らしてくれる光を求めようとする。全てが予測できる未来なんて、きっとつまらない。

予期せぬ変化をもっと楽しめるようになりたい。
リカバリーには時間がかかるかもしれないが、逆に「時間さえかければ可能である」ということも身をもって分かった。そうすれば、どれだけ期待していたとしても結果をポジティブに受け止められる気がする。
それは脱線ではなく、寄り道だ。そしてその寄り道の最中にこそ、思ってもみなかった発見やこれから先の自分を大きく変えるきっかけが転がっていたりするのかもしれない。

人生で一番ハマったゲームはポケモンだが、過去どのシリーズをプレイしても、珍しいポケモンやアイテムは最短ルートの途中にはいなかった。必ずダンジョンの奥深くや、見逃していた場所にあるのが常だった。そしてそれを見つけた時の喜びはやはり一際大きなものがあり、見つけるたびに友達に自慢していた。

だから何事もそんなもんなんだと思う。きっと。
大切なものは見えにくいからこそ、一度手にしてしまえばずっと側に置いておきたくなる。簡単に手放すことのないよう、過ごせていけたらいい。

翌日、「昨日はごめん!本当にごめん!!」と謝る友人に、私は答えた。

「いや、全然大丈夫。むしろありがとね」


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