Atsushi Endo

ただの映画オタク

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最近の記事

それでも私達は手を取り合える。『あのこは貴族』が示す連帯

全く投稿しなくなって放置していたら2年近くも経ってた… 編集的な仕事をしておきながら書く習慣がないのはよろしくないなと思うので、気まぐれに頑張って更新します。 といっても、自分が書けるネタは映画か本くらいしかないなあと思うので 2021年で今の所ベスト候補の映画『あのこは貴族』の感想を今回は書いていきます。 2021年2月に公開された本作。 山内マリコ原作の同名小説を『グッド・ストライプス』の岨手由貴子監督が映画化。 主演は門脇麦、水原希子。 あらすじ(公式サイトより抜

    • 『ひかりの歌』のやさしさに包まれたなら

      映画館を出ると、ふわふわしていた。 それはもう、ふわふわとしか言いようがないほどふわふわしていた。 何が、と聞かれれば、ぜんぶが、と答える。 ぜんぶとは呼んで字の如く、目の前に広がる景色全て。 日が沈みつつある町の喧騒、家路を急ぐ人たちが持つスーパーのビニール袋、行き交う足音、ロータリーから発車するバスのエンジン音、飲み会に向かうであろう若者のはしゃぎ声、煌々と灯る居酒屋チェーン店の看板。 五感を通して感じるもの全てが朧げになって、周りよりも10センチだけ浮いて歩いてい

      • 戦場はマクドナルド

        「668をお願いします」 私の休日はこの第一声から始まる。近くのマクドナルドで朝メニュー、いわゆる朝マックを食べるのが休日のルーティン。668とは、定番のソーセージエッグマフィンセットのクーポン番号である。通常は450円なのだが、公式スマホアプリのクーポンを店員さんに見せれば350円でいただくことができる。他のメニューもクーポンはあるけれど、割引額が10円単位のものが多く正直言ってあまりおトクに感じない。けれどもソーセージエッグマフィンは違う。いつ何時でも100円引きの懐を

        • 伝わらなくても大丈夫

          コミュニケーションとはなんぞや。 それを考えた時、真っ先に頭に思い浮かんできたのは就活だった。 コミュニケーション能力やコミュ力といった言葉は、この時期耳にタコができるくらいに毎日聞いていた。 同時に、めちゃくちゃ大事なスキルらしいことも、知るのに大した時間はかからなかった。そんなに大事なら義務教育で教えて欲しかったなあと、当時の私は呑気に構えていた。 就活中はどこもかしこも、要約すれば大体似たようなことを言っていたのを覚えている。 「一番大切なのはコミュ力だ。コミュ

          変わりたい、変わりたくない

          どういうわけか最近よくイヤホンが壊れる。 根元を折り曲げることもなく、絡ませることもなく使っているのに、使い始めて3ヶ月も立たない内にノイズが走り始める。嫌な予感がしつつも使っていると、今度は勝手に曲が止まったり急に流れなくなったりする。勘弁してくれと思いながらしぶとく使っていると、ついに片耳が聞こえなくなった。両耳にイヤホンをつけているのに片方が聞こえないのは、めちゃくちゃ気持ち悪い。それはもう、本当になんとも言えない気持ち悪さがある。気分を変えたくて音楽を聞くのに、これじ

          変わりたい、変わりたくない

          My Roomという幻想に囚われて

          「俺もう寝るから電気消してー」 深夜1時頃、兄にそう言われしぶしぶ部屋の電気スイッチを切る。まだ眠くないので布団に入ってスマホをいじる。細めた目で光るディスププレイを見つめながら思った。 「自分の部屋が欲しい...」 生まれてから大学を出るまで、自分専用の部屋を持ったことがない。それは兄も同じだった。 一人で使うには中途半端に広い横長の部屋が、実家にはある。 小学校に上がる時、両親がそこを勉強部屋にしようと決め、それ以来私と兄の勉強部屋と就寝部屋を兼ねている。部屋に入っ

          My Roomという幻想に囚われて

          欲しいものを買うだけ

          4月17日から5日間、東京丸の内で開催されている生活の楽しみ展。 たまたま予定が空き、足を運ぶことができた。 ぶらっと回って帰るつもりだったけれど、目に留まった一つのブースがある。 そこはポーチを販売しているブースで、色とりどりにデザインされた3種類の大きさのポーチが、所狭しと並べられていた。 ポーチと言えば、女性が使う化粧品ポーチを最初にイメージするせいか、男性が使うものではないという認識があった。そのブースを見ているお客さんの中で、男性は自分だけだった。 けれど不

          欲しいものを買うだけ

          結び、の時

          「おおお…。これはグッときた。メモしとこ」 小説やネット記事を読む中で、心の何処かに引っかかった言葉をメモするようにしている。 これといった理由は特にないけれど、後々時間が経ってからそのメモを見返した時に、違う意味合いを感じられたり、異なった響き方をするのが面白いのだ。 書いて残してしまえば忘れにくいので、備忘録のような役割も兼ねている。 軽く日記をつけたくて買った手帳は、いつの間にか私以外の誰かの言葉で埋め尽くされていた。誰かの言葉に救われていると同時に、依存もしていた

          結び、の時

          特別はすぐそばに

          「私じゃなくてもできるよなあ...」 久しぶりに会った友人と「最近どう?」の流れで今の仕事の話になった。 そこでボソッと呟いた友人の一言が、すごく印象に残った。 「分かる」 声には出さなかったけれど、めちゃくちゃそう思った。めちゃくちゃ共感した。 私じゃなくてもできる。 それはつまり「自分にしかできないことをやりたい」の裏返しだと思う。 友人がその言葉を 「私なんかよりもっと相応しい人がいるはず...」という、謙遜や自信の無さから発したのか、それとも 「できる私には

          特別はすぐそばに

          映画『運び屋』に真の生き様を見た。

          「すいません、前失礼します...」 すでに映画の上映が始まった劇場、男性が目の前を横切って私の隣に座る。 その一瞬、スクリーンが視界から消える。 映画はその世界観に没入できるかどうかが全てだと思っている私は、それだけでも気が散ってしまい、ちょっぴり嫌な気分になった。 「何で遅れるかな...。一つ前の席にすればよかった...」 なんてすぐに考えてしまう自分の心の狭さにもがっかり。 こういう、些細なことに寛容になれないのは私がまだまだ若造だからなのか。 けれども、嫌なも

          映画『運び屋』に真の生き様を見た。

          『スパイダーマン:スパイダーバース』が問いかける新たなヒーロー像

          「気が付いたら体が勝手に動いてました」 非常時に人助けをして表彰された人は、共通してこう話すことが多い気がする。 踏切から出られなくなった車椅子のご老人を助けた人も、川で溺れていた子供を助けた人も、ニュース記事で警察からの表彰状を手にする写真に添えられているコメントは似ている。 それくらい衝動的に、考えるよりも手や足が先に動くのはその人の特性なんだと思っていた。危機に晒されている命が目の前にあるならば、何としてでも救おうとする。いわゆるヒーローって奴はそういう人のことを

          『スパイダーマン:スパイダーバース』が問いかける新たなヒーロー像

          ドタキャン上等

          「ごめん!1日勘違いしてた!」 約束の時間を10分ほど過ぎた時、その日会う予定だった友人からメッセージが届いた。 今日の約束を明日だと思っていたらしい。 今から行くのは厳しいとのこと。 めちゃくちゃ謝られたが、私は今日でも明日でも都合がよかったので、それじゃあ明日に変更しようかーということでメッセージのやり取りは終わった。 「これからどうしよう」 何しろ数時間の予定が丸々空いたのだ。 明日やりたかったことを今日やろうか、それともせっかく来たこの辺りを散策しようか。 少

          ドタキャン上等

          当たり前のことを忘れたくない

          「ハイこれ、なんか来てたよー」 ルームシェアをしている同僚から渡された郵便物に、私は思わず身構えた。 洒落た封筒。丁寧に筆ペンで書かれた宛先。そして封を閉じられているシールには「invitation」の文字。 「結婚式の招待状や...!」 いや、知っていた。 中学高校の6年間、共に汗を流した部活仲間が結婚することは。その招待状が送られてくることも。3ヶ月ほど前、そのために住所を聞かれていたがすっかり忘れていた。 これまで誰かの結婚式に参加したことがない私は、招待状を受け

          当たり前のことを忘れたくない

          ふしぎなニホンゴ

          「Kiki's Delivery Service」 キキのデリバリーサービス。 一体、何のことかお分かりだろうか? これは、宮崎駿監督のジブリ映画「魔女の宅急便」の英語版タイトルである。 何を隠そう、そのまんまだ。 この文字列を見た時、何か思わなかっただろうか。 私は見た瞬間、強烈な違和感を覚えると同時に、笑ってしまった。 いや、別に何もおかしな点はない。 一度でも作品を観たことがある人なら「Kiki」は主人公の少女キキのことだとすぐに分かるし、「Deliv

          ふしぎなニホンゴ

          愛すべき中二病

          「メガネってダセえ」 高校生の時、急にそんなことを思い始め、両目共に0.1以下の視力しかないくせに、授業中だけメガネをかけて普段は裸眼で過ごすということを続けていた。 何の漫画に影響を受けたのか、「メガネをかけている奴=イケてない奴」という意味不明な方程式が当時の私の頭の中には爆誕していた。とんだ中二病である。 コンタクトをすれば万事解決なのだが、私の目は諸々の事情で生涯コンタクトをつけられない。そのため、レーシック手術でもしない限り、私の目の悪さはメガネでカバー

          愛すべき中二病

          祖父が咲かせてくれた花

          「何かを続けることはとても大切だよ」 なんて決まり文句は小さい頃から色んな人たちから聞かされてきたけども 私は祖父以上にこの言葉を体現している人を知らない。 それはこれからも変わらないと断言できる。 祖父は夕食後、必ず散歩に出かける。 それはもう私が生まれる前から継続しているらしく、身体に染み付いていると言っていい。 隣駅までの2キロほどの道のり。往復1時間ほどのコースを、夏の熱帯夜も冬の凍えそうな夜も、お構い無しに出かけていた。台風で大荒れの日にも行こうとして、祖母

          祖父が咲かせてくれた花